NHK大河ドラマ『いだてん』の第18話が12日に放送され、平均視聴率は前回から1.0ポイント増の8.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。『いだてん』が低視聴率である理由を解説する記事はネット上に山ほどあるが、そのどれもが同じことしか言っていないため、この記事ではあえてそれを繰り返すことはしない。
とはいえ、さすがにNHKも脚本を手掛ける宮藤官九郎も参っているだろうな、とは思う。NHKの上田良一会長が『いだてん』について「(視聴率を上げる)特効薬的なものがあったら、逆にお聞きしたい」と弱音を吐いたことは最近、インターネットニュースで報じられた。一方、クドカンも、ラジオ番組で大河脚本の大変さについてグチをこぼし、NHK批判とも取れる発言をしたという。NHKとクドカンが互いに視聴率低迷の原因を相手に転嫁しているという心のうちが透けて見えるようだ。
ただ、ドラマファンとしては、「視聴率が低迷しているからダメな作品だ」と烙印を押すだけでは能がない。低視聴率の原因として多くの人が挙げている「題材が近現代である」「主役の知名度がない」「時代が入り乱れる」「主役のストーリーと落語のストーリーが同時進行する」といった今作の特徴は、裏を返せばこの作品が「(まったく新しいわけではないが、過去に例が少ないという意味で)新しい大河ドラマ」「挑戦的なドラマ」である証拠でもある。
そんなわけで、筆者としてはなるべく前向きな姿勢で『いだてん』を評価したいと常々思っている。
と言ったばかりで手の平を返すようだが、そんな筆者でも今回の第18話はちっとも面白くなかった。複数の話が同時進行したのだが、そのどれもが特にパッとせず、完全に「つなぎ回」だったからである。一応挙げておくと、第18話で描かれた主なエピソードは、以下の5つとなる。
・金栗四三(中村)が各地のマラソン競技を転戦し、全国を駆け巡った
・欧米で学んだ二階堂トクヨ(寺島しのぶ)や可児徳(古舘真治)により、女子体育が推進され始める
・播磨屋の主人・黒坂辛作(三宅弘城)により、ゴム底のマラソン足袋が完成する
・四三とスヤ(綾瀬はるか)の間に長男・正明が生まれる
・美濃部孝蔵(森山未來)がヤクザに追われる
この5つのうち、「ゴム底のマラソン足袋完成」と「長男誕生」を除く3つは単なる「過程」であり、明確な成果や結末があるものではない。山あり谷ありのドラマチックな展開だったわけでもない。ドラマとして盛り上がらないのは当然だ。
四三が参戦した各地のレースの状況を詳しく描いて盛り上げることもできたとは思うが、その手法はすでにこれまで2度も使っているため、今回は各地のレースに参加した事実をあっさりと描くだけで済ませたのだろう。このあたりは、題材の難しさがもろに出た部分だといえる。
何しろ主人公の金栗は、基本的に「走るだけ」なのである。だからといって、レース本番の様子を描写するばかりでは、毎回変わり映えしないドラマになってしまう。つまり、金栗四三というマラソン走者を主人公に据えた時点で、脚本家には「主人公がもっとも活躍する場面(マラソン本番シーン)をあまり描いてはいけない」という制約が課せられているのだ。それでドラマを盛り上げろと言われても、さすがのクドカンでも厳しいのではないだろうか。
とはいえ、「ゴム底のマラソン足袋完成」をあっさり描いたのはいただけなかった。「世の中に新たな製品が生み出される過程」は、格好のドラマの題材である。何しろ、老舗の足袋メーカーが足袋型のシューズを開発するドラマ『陸王』(TBS系)は、その話だけで1クール放送したのである。それなのに『いだてん』では、四三がなんの伏線もなく、突然「足袋の底をゴムにしてほしい」と播磨屋に要望し、後日播磨屋が完成品を持ってきたという、わずかなやり取りで終わらせてしまった。これでは、クドカン自らドラマとしての盛り上げどころを放棄していると言われても仕方がない。「『陸王』のパクリ」と揶揄されることを覚悟のうえで、ゴム底のマラソン足袋開発秘話を1話かけて描いたほうがよかったのではないだろうか。
さて、第18話のラストでは、嘉納治五郎(役所広司)のもとに五輪再開を伝える手紙が届いた。第19話では、2度目のオリンピック参加を目指す金栗の姿と、現代でも絶大な人気を誇る箱根駅伝の誕生について描かれるようだ。「紆余曲折あり、苦労の末に箱根駅伝が誕生しました」というエピソードならいいが、その過程があっさりと描かれてしまっては、今回と同じことの繰り返しである。どうなるのだろうか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)