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現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”第45回

芸能プロ関係者が語る深津絵里の“仕事選びと年収”…なぜ『ちむどんどん』は不評なのか

文=芸能吉之助

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 どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

 今回は、NHK「連続テレビ小説」(以下、朝ドラ)についてお話ししたいと思います。今年4月11日から放送されている第106作目の朝ドラ『ちむどんどん』は、なぜこんなにも不評を買っているのか。そして前作『カムカムエヴリバディ』(2021年11月〜2022年4月)が、なぜ大成功を収めることができたのか、私なりに考察していきたいと思います。

 沖縄の本土復帰50年を記念して放送されている『ちむどんどん』は、放送終了後に3作もの続編が作られた『ちゅらさん』(2001年4月〜9月)と同じく沖縄が舞台ということで、視聴者からの大きな期待を受けて始まりました。しかし、5月16日放送の第26話から東京編に入った現在もいまだ評判は高まらず、これまでの平均世帯視聴率が15.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ/以下同)と伸び悩んでいます。

 その原因としてしばしば語られているのが、脚本のツッコミどころの多さです。沖縄本島北部のやんばる地区を舞台に、沖縄料理に夢を懸けるヒロインと強い絆で結ばれた4兄妹の「家族」と「ふるさと」を描く作品……とアナウンスされているものの、隙あらば主人公たちに「不幸」がぶっこまれます。多くの視聴者には、それらのひとつひとつが非常に理不尽かつ安易なものに見えているようで、そんなご都合主義的な「不幸」に、朝ドラファンはがっかりしているようです。実際ネット上には「朝からイライラする」「不快」などと、早々に視聴から離脱宣言をする声も多く見受けられました。

 特に沖縄を舞台にした「幼少期編」は、まさしくこうした不幸の連続でした。放送開始1週目から、主人公の父・比嘉賢三(大森南朋)が病死し、残された母・優子(仲間由紀恵)はいつまでもフラフラして、あげく出資詐欺に遭って借金を作りまくる長男・賢秀(竜星涼)にとことん甘い。長女・良子(川口春奈)は家庭の貧しさを嘆き、三女・歌子(上白石萌歌)は病弱。それを本作のヒロインである次女・暢子(黒島結菜)があっけらかんとノーテンキに笑い飛ばす。なかなか共感するのが難しいんですが、当時の沖縄を知る人に言わせると、「あの頃のウチナンチューはあんなダメ男とアンマー(母親)だらけだったさあ」という意見も……(笑)。

 古くは『おしん』(1983年4月〜1984年3月)がそうであったように、明るくポジティブなヒロインが逆境に耐えながら夢を叶えていく……という物語は、まさしく朝ドラの原点ともいえるでしょう。ですが、少なくとも『ちむどんどん』は、現代の視聴者の心を掴み切れていないのかもしれません。

『ちむどんどん』は羽原大介氏による完全オリジナル脚本。羽原氏は、2006年に『パッチギ!』で日本アカデミー賞優秀脚本賞、2007年には『フラガール』で同最優秀脚本賞(ともに共同脚本)を受賞しており、朝ドラでは、『マッサン』(2014年9月〜2015年3月)に続く2作目の脚本担当となっています。

 今年5月3日に掲載されたスポニチ紙のインタビューで羽原氏は『ちむどんどん』について、「弱い人たちへの応援歌的なストーリー展開」と語っており、「貧しい家に育った4兄妹には、今後、金銭的なことも含め、ますます試練が待ち受けています」と、さらなる逆境を示唆していました。前期の朝ドラは例年9月中旬頃まで放送されるので、『ちむどんどん』も間もなく折り返し地点を迎えることとなります。ここからどれだけ巻き返せるか、期待したいところです。

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「違和感」「強引な展開」「共感できない」など、少々ネガティブな反応が多い今回の朝ドラ『ちむどんどん』。ヒロインを演じるのは沖縄生まれの女優・黒島結菜。物語はまだまだ始まったばかりだ。(画像はNHK公式サイトより)
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高視聴率はもちろん、様々な賞を獲得するなど大好評だった前作の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』。左から上白石萌音・川栄李奈・深津絵里で、朝ドラ史上初の3人がヒロインを務めた。(画像はNHK公式サイトより)

『ちりとてちん』『平清盛』を手がけた脚本家・藤本有紀による綿密な伏線と、ちりばめられた小ネタ

 ここで思い起こされるのが、前作の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』です。

 この4月8日に放送された最終回の視聴率は番組最高の19.7%、リアルタイム視聴者数も番組最高の1783.3万人と終盤以降右肩上がりに終わり、終了後は多くの視聴者が「カムカムロス」を嘆くなど、朝ドラにとって久々のヒット作といえるでしょう。

 ではいったい、『カムカムエヴリバディ』の何がよかったのか、考えてみたいと思います。

『カムカムエヴリバディ』は、過去に『ちりとてちん』(2007年10月〜2008年3月)、や大河ドラマ『平清盛』(2012年)を手がけた藤本有紀氏によるオリジナル脚本でしたが、まずこれが素晴らしかった。『ちりとてちん』もそうでしたが、緻密な伏線がふんだんにしかけられ、劇中のさりげない台詞や小ネタがのちの重要な場面につながっていくという、藤本氏らしい脚本の妙が遺憾なく発揮されていました。

 ともすればツッコミどころの多い、無茶苦茶な話ではあるんです。クライマックスに至るシーンでも、正体を隠していた安子ことアニー・ヒラカワ(森山良子)が、孫のひなた(川栄李奈)に追われ、岡山市内を駅伝ランナー並みに走りまわるのですが、これに対しても、「いやいや、すぐに捕まるだろ」とか「78歳(の設定)なのに健脚すぎる」といった声がネットでたくさん見受けられました(笑)。

 ですが、その後の展開でしっかりと伏線が回収されていたり、セリフの強さなどで視聴者を納得させてしまうんです。考えてみれば、小さい子どもに「I HATE YOU」と言われただけで、子どもを置いて米兵とアメリカに行ってしまうって、ちょっとあり得ないでしょう(笑)。上白石萌音さんが演じた安子が、時を超えて森山良子として帰ってくる……というキャスティングも、「なんで?」と思わせつつもおおいに話題となり、本当に秀逸でしたね。

 ほかにも、るい(深津絵里)の夫で、オダギリジョーさん演じる将来有望なトランペッターの錠一郎が、突然トランペットを吹けなくなるのですが、実はそのモデルは、『カムカムエヴリバディ』の音楽監督を務めた金子隆博さんでした。作中では「職業性ジストニア」という病気が原因でそうなるのですが、視聴者のなかに「そんな病気あるの?」「都合よすぎじゃない?」といった声が上がっていたところに、金子さんが『あさイチ』(NHK)にゲスト出演。米米CLUBでホーンセクションの奏者でもあった金子さんが、作中の錠一郎と同じ病気にかかっていた……といった経験談を語り、話題となりました。

 視聴者に一度ツッコミを入れさせる余地を与えてからの、「実は……」というエピソードの提示……というサイクルの作り方が本当にうまいなあと思いましたね。

ツッコミどころ満載だった『カムカムエヴリバディ』はなぜバズったか

『カムカムエヴリバディ』の脚本としての“精度”が高いかといわれれば、作中人物の細やかな心の機微をもっと上手に描くようなすごい作家さんも、ほかにいるとは思うんです。でも、さまざまなしかけがあって、笑いがあって、涙があって、それでいて万人が楽しめる“ウェルメイド”なものに仕上がっている……という点においては、いま、藤本氏の右に出る方はなかなかいないんじゃないかと。そういう意味で『カムカムエヴリバディ』は、やはり脚本家である藤本氏、そしてプロデューサーの功績は大きかったといえるのではないでしょうか。

 それが証拠に、みんなが『カムカムエヴリバディ』を“語りたがって”いましたよね。前述の『あさイチ』は、朝ドラ直後に放送されるため、番組冒頭でその日の朝ドラの内容についてひと言触れる「朝ドラ受け」が名物になっていますが、MCの博多華丸・大吉さんや鈴木奈穂子アナも、毎日楽しそうにドラマを振り返っていましたし、「週刊文春」が総力特集を行ったのをはじめ、多くの雑誌やネットメディアが、『カムカムエヴリバディ』についてさかんに記事をつくっていました。

 これらの記事は、NHKや出演者の事務所が“しかけて”メディアに書かせたものは少なく、ドラマの人気があったがゆえに、メディアの側が自主的に制作したものがほとんどでした。要は、ドラマの出来がいいからこそ視聴者が語りたがり、そんな視聴者をめがけてメディア側が記事を制作していく……そのような正のスパイラルが自然発生的に生じていたということ。つまり『カムカムエヴリバディ』は、ドラマの面白さだけではなく、視聴者を増やすための現代的なメディアミックス、フォローアップの仕組みが、双方向からごく自然な形でなされていたということなのでしょう。

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前作の朝ドラ『カムカムエブリバディ』で圧倒的な存在感を放っていたのは、18歳の少女時代を演じきった深津絵里だろう。「48歳とは思えない」「透明感がハンパない!」と話題になった。 (画像は同番組公式Twitterより)

48歳の深津絵里が18歳のるいを演じる“奇跡”はなぜ成立したか

 さらに、芸能マネジメントに携わる者として、もっとも触れておかなければいけないのが、深津絵里さんの存在です。木村拓哉さんと共演した『CHANGE』(2008年、フジテレビ系)以来、実に13年ぶりに彼女がドラマに出演したことも、『カムカムエヴリバディ』における……いや、今年の芸能界における大きな“事件”だと思います。

『カムカムエヴリバディ』は、3世代のヒロインを異なるキャストが演じましたが、1代目ヒロインの上白石萌音さんと3代目ヒロインの川栄李奈さんが3000人以上のオーディションから選ばれている一方で、深津さんだけは、チーフプロデューサーがご本人に長い手紙を送って口説き落としたといいます。

 放送前でこそ、48歳の深津さんが18歳の役を演じることを揶揄されたりもしましたが、久々のドラマ出演に『カムカムエヴリバディ』を選んで出てきて、完璧な勝利をかっさらっていったのだから、恐ろしいことです。ルックスも昔とほとんど変わりませんし、もはやモンスターだと思います。「たまにしか出ない」という価値観をここまで崩さずにイメージを保ちきることは、ほかの人では到底できないのではないでしょうか。

 例えば、深津さんと同年齢の女優に松嶋菜々子さんがいますが、彼女も今年1月、脚本家の遊川和彦氏と『家政婦のミタ』(2011年、日本テレビ系)以来、約10年ぶりにタッグを組んだ『となりのチカラ』(テレビ朝日系)というドラマに出演したんですよ。活動休止中の嵐の松本潤さんが久しぶりに主演をはったドラマで、松嶋さんは、ちょっと崩れた白髪混じりのおばさんの役に挑んだのですが……残念ながら視聴率は伸びませんでしたし、話題としてもそれほどのものになりませんでした。

 ほかにも松嶋菜々子さんは、『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』(NHK BS)というドキュメンタリー番組の司会や、Uber EatsのCMで「Matt化メイク」をしてみたりと、いろんなことにチャレンジはしてるけど……松嶋菜々子という女優が築き上げた“格”を100%いかしきれているかといわれれば、ちょっと疑問符がつきますよね。けれど、もちろんお金はしっかりと稼いでいるはず。芸能人は、露出を続けなければなかなか広告仕事もとれないですから、そのために“顔を売り続けている”という側面もおおいにあるでしょう。

高収入を追求せず、仕事だけやり、決して古びず“高級感”を維持する深津絵里の“潔さ”

 一方の深津絵里さんは、今年、33年ぶりに「JR東海」のCMに出演したことが話題になりました。しかし、実は広告仕事はそれほど多くありません。あのクラスの俳優さんがいわゆる「売れっ子芸能人」と呼ばれるためには、1本3000〜5000万円くらいの広告を4〜5本、年間売り上げで2〜3億円ほど稼ぎ、そこから事務所の取り分と税金を差し引いて、手元に1億円くらい残る……といった感じが理想的だと思います。ですが、深津さんはとてもそれほどの数はこなしていないし、広告だけでなく、女優仕事もそれほど多くはありません。

 これからまた、「カムカム効果」で広告オファーが殺到すると思いますが、あれだけのネームバリューがあるのにこれだけの仕事しかやっていないということは、これまでにも多くのお仕事を断ってこられたのだと思います。広告のみならず、役者仕事もね。

 要は彼女は、本当にやりたい仕事だけをやりたい……そういうタイプの役者さんなのだと思います。芸能人だってそりゃあ人間、いろんなものを犠牲にしないと成り立たない仕事だからこそ、そういう部分にはちょっと目をつぶってでもそれに見合ったお金はもらいたいという方が大半です。深津絵里さんは、そういうところとは真逆のベクトルでお仕事をし、そういう人生を選んでおられる……ということなのでしょう。

 その証拠にみなさん、気づきましたか? 今回の『カムカムエヴリバディ』、多くのキャストさんが『あさイチ』などに出演するなか、深津さんは番宣にはいっさい出演されませんでした。雑誌などの取材も受けていないと思います。私はその選択を、とても賢いなあと思いましたね。

 上で述べたような独特の存在感とお仕事のスタイルをお持ちの深津さんが中途半端に番宣に出演し、「撮影、大変でしたか?」「普段、料理とかするんですか?」なんて質問に答えていたら、もちろん番組のその場は楽しくは盛り上がるでしょうが、やはりなんというか、“地上に降りてきた”ような印象を、視聴者に対して与えてしまうと思います。

 しかし深津さんは、メディアでプライベートを語らないことによって自身の“高級感”を保持したし、物語の舞台以外の場所には現れないからこそ、視聴者もブレずに深津さんを「るい」というキャラクターで眺めることができた。そのことが、今回の『カムカムエヴリバディ』という物語にも深みを与えた部分は多分にあったと思います。

 そうした判断が本人の意図によるものなのか、NHK側のプロデュースチームによるものなのか、はたまた所属事務所・アミューズのマネージャーによるものなのか……はちょっとわかりません。しかし、とにもかくにもそういったジャッジ、采配も含め、さまざまな要因が絡み合いうまくハマったことで、『カムカムエヴリバディ』は近年でもまれに見るすばらしい朝ドラになり得たんだと思います。

 とはいえ、もちろんそれらの中心にあるのは、やっぱり脚本。脚本のよさです。まずは「脚本がすごかった」とほめたたえられるべき作品だと、私は思いますね。

(構成/エリンギ)

芸能吉之助/芸能マネージャー

芸能吉之助/芸能マネージャー

弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の現役芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。

Twitter:@gei_kichinosuke

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