上野樹里、平手友梨奈、桐谷美玲、赤西仁、満島ひかりらが頼る“敏腕マネージャー”の正体
どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。
近年、タレントの事務所独立や移籍の話題が増えていますが、その勢いはまだまだ止まらなそうです。以前も、「大手プロダクションからの大物役者の独立」という問題については語ったことがありますが(下記参照)、今回もまたあらためて、芸能マネジメントの立場から、タレントとマネジメントの関係性の変化について、分析を加えてみたいと思います。
女優の上野樹里さんが、今年の3月31日付で2004年から所属していた「アミューズ」から独立をしたことは記憶に新しいかと思います。6月に最終回を迎えた出演ドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』まではアミューズの担当が現場についていたようですが、それ以降は個人事務所での活動となり、元マネージャー男性が代表を務める芸能事務所「Don-crew」(ドンクルー)と業務提携をすると発表されました。
双方ともに前向きなコメントを出していたので円満退社だと思いたいですが、個人的にはこの世に円満なんてものはないと思っています。だって、本当の本当に円満なら……そもそも辞めないですよね?(笑)。アミューズは大手プロダクションですから、まさかお金で揉めるようなことはなかったのだと思いますが、今回のケースを上野さんの立場から見れば、「育ての親と一緒にやっていきたい」ということなのではないでしょうか。そうした決断に至るまでに、上野さんのなかにどんな思いがあったのかをうかがい知ることはできませんが、そう決断をくだされた以上、事務所としては、「本人が決断し、そんな彼女のことをちゃんとわかってくれている人が次にマネジメントしてくれるのであれば、まあいいか、しょうがないか……」と納得するほかなかったでしょうね。
上野樹里、平手友梨奈、大原櫻子などがこぞって頼る、アミューズから独立した敏腕マネージャー
上野さんは、もともとは「ウィルコーポレーション」というモデル系の小さな芸能事務所にいましたが、2004年にアミューズに“事務所ごと移籍”しています。大手プロとはいえ、モデルプロを丸ごと飲み込むというのはかなり異例のことだったでしょうが、ウィルコーポレーションは、同じく女優としてのちに才能を開花させる吉高由里子さんも所属していたらしいですから、結果としてアミューズにとっては、大成功の決断だったということになりますよね。
こういった経緯があるだけに、上野さんが独立後に合流する元マネージャーは、ウィルコーポレーション時代から信頼関係を築いてきた人物……かと思いきや、さにあらず。アミューズに所属以降、若き日の上野さんを長い間サポートしてきた担当マネージャーさんだそうで、彼は2年前、上野さんに先立ってアミューズを退社して独立しています。彼が立ち上げた芸能プロDon-crewには、2.5次元舞台などで活躍する阪本奨悟さんや、まだそこまで売れてはいない女優さんなど数名が在籍していますが、平手友梨奈さんや大原櫻子さんとも業務提携をしています。ここだけを見ても、タレントさんからの信頼を勝ち取ることができる、相当優秀な人物だということがわかりますよね。
というわけで、上野さんもそんなDon-crewと業務提携して仕事をしていく形となるようですが、このように、タレント個人としては独立しつつも、仕事の窓口としては信頼できる人物と業務提携してある程度マネジメントを任せる……というスタイルは、これからもっと増えていくと思います。
芸能プロ“カリスマ社長”時代の終焉…桐谷美玲、赤西仁などがこぞって求める“敏腕マネージャー”
上野樹里さんと同じく、16年の長きにわたって所属した芸能プロ・スウィートパワーからこの3月いっぱいで独立した桐谷美玲さんも、長澤まさみさんの育ての親と呼ばれる敏腕マネージャーが、東宝芸能を退社して立ち上げたプロダクションと業務提携をしていますし、元KAT-TUNメンバーでジャニーズ事務所所属だった赤西仁さんも、女優・小西真奈美さんの元マネージャーが担当すると聞きました。みなさん、“敏腕マネージャー”、“名物マネージャー”として名の知られていた人たちばかりです。この業界、本当に優秀なマネージャーって実はそれほど多くはないので、名のあるタレントさんが独立した場合、結局はその後のマネジメントはそうした敏腕マネージャーの誰かが手がけている……ってことは、往々にしてあることなんですよね。
昨今のこうした動きには、われわれマネージャー側の意識の変化も影響していると思います。それは、「カリスマ的な魅力を持った社長を慕ってタレントたちが集う」といったスタイルの芸能プロの減少です。ジャニーズ事務所の故・ジャニー喜多川元社長、ホリプロの堀威夫元社長といった“カリスマ社長”の号令に、多くのタレントたちがいっせいに付き従う……といった昭和の芸能界的なスタイルが消えつつあるわけですね。
安藤サクラさんや門脇麦さんらが所属するユマニテ(畠中鈴子社長)、江口洋介さんや黒木華さんらが所属するパパドゥ(山田美千代社長)、小栗旬さんや田中圭さん、綾野剛さんらが所属するトライストーン(山本又一朗社長)といった、“役者系の事務所”といわれるような硬派なタイプの芸能プロには、まだそうしたスタイルはある程度残っているかもしれません。しかし最近は、そういうタイプの芸能プロは確実に減りつつある。
以前は、売れっ子タレントを引き連れて敏腕マネージャーが独立を果たし、そこから会社をどんどん大きくして……というのが、芸能プロのひとつの典型的な“成功例”でした。先ほど挙げたジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏やホリプロの堀威夫氏は、ともに当時の渡辺プロダクションから独立して成功しており、まさにこうした例ですよね。しかし最近のマネージャーたちは、独立しても“自分の城”を大きくすることにあまり大きな意味を見出ださず、現場に出続けて自前で新人を育てたり、ひとりのタレントをしっかりマネジメントしようとする傾向が強いように思います。
とはいえ前述の通り、超優秀なマネージャーは実はそれほど多くはない。ゆえに、「自分のマネジメントもやってほしい」といった形で、よそを独立したタレントがみんな、ごく一部の有能マネージャーが立ち上げた小規模な事務所に寄ってきてしまう……といったケースが頻出している。昨今のそうした状況の典型例が、上記の上野樹里さん、桐谷美玲さんなどのケースなのかなあ、という気がしますね。
大手プロから独立したって、地上波テレビに出続け、ナショナルクライアントのCMをやりたい! だからこそ必要とされる“敏腕マネージャー”
では、なぜこのようなケース――大手プロから独立したタレントさんが、同種の大手プロに勤務していた敏腕マネージャーの立ち上げた小規模プロと業務提携する――が増えているのでしょうか? YouTubeやSNSなどへと芸能人の活動の場が広がり、地上波テレビや全国公開の映画にばかり出なくても、タレントとしてやっていけるようになったから?
いえいえ、逆なんです。
芸能人はこのネット全盛の2022年においても、独立したってやっぱり地上波テレビには出たいし、大作映画にだって出たいんです。それはひとつには、演じる人間としての当然の欲求――やはり役者をやる以上、“いい作品”“より多くの人に見てもらえる作品”に出たいという思い――があることが大きいでしょう。
それからもうひとつ大きいのは、そういう“メジャーな場”にい続けないと、ナショナルクライアント級の大きなCM契約はなかなか取れないから……というもの。ヒカキンさんなどの人気YouTuberさんが大きなCMをやるなどしてだいぶ状況が変わってきてはいますが、やはりいまの日本においては、きちんとした会社の大型CM案件を取ろうと思えば、地上波番組や大作映画に出て“お茶の間の顔”でいることは大切なこと。CM契約という金額の大きな仕事によって芸能人が経済的な安定を望むならば、“メジャーな場”で活躍を続けている必要があるわけなんです。
とはいえこのご時世、やっぱりYouTubeやSNSで自由な表現、自由な発言をしたいと思うタレントさんは多いでしょう。だけど、多くのタレントさんが所属し、“関係各所”の多い大手芸能プロともなれば、やはりいろんなところに“忖度”“配慮”して、ネットでやりたいことをやれない、SNSで言いたいことを言えない、といったことも多い。だから、頑張って仕事をしてある程度の知名度を獲得できたタレントさんは、独立したいと思う。だけど、だからといって、大手プロ所属だからこそ持っていられた“メジャーな活躍の場”へのコネクションも保持していたいし、数千万円級のCMのお仕事もこれまで通り欲しい……。
だからこそ、ここで必要とされるのが、「大手プロから独立して小回りのきくようになった敏腕マネージャー」という存在なわけなんですね。
コネクションをつくる、台本を読む、仕事を断る…芸能マネの仕事は“高カロリー”で大変!
いい作品に出演するためには、“台本を読める”――つまりいい台本を見極める能力が必要とされますし、多くのプロデューサーと交渉できなければいけません。いざ出演したいとなっても、出演条件の交渉も必要になってくる。ギャラ交渉はもちろん、条件が折り合わなければきちんとした断りを入れなければいけない。問い合わせメールに対して定型文で簡単に断りを入れるだけなら独立したタレント本人でもやれるかもしれませんが、テレビ局や映画会社のプロデューサーからの出演依頼ともなれば、そういうわけにはいきません。いい作品に出会うための、関係者との日々のコネクションづくり、断るなら断るで、きちんと相手に会って話を聞いて、検討をした上で「本当によいお話なんですが、今回は申し訳ございません」と丁重に返事をする。どんな仕事でも当たり前のことですが、こういった作業のひとつひとつが実は非常に手間がかかるというか……“高カロリー”なんですよね。それを、クリエイターの側のタレント本人がこなすって、そうとうしんどいと思いませんか?
気心の知れた友人たちと洋服のプロデュースをやったりYouTubeチャンネルをやる程度のことであれば、確かにタレント本人だけでもなんとかなるかもしれません。身の回りの世話は家族や恋人に頼めばいいでしょうしね。だけど、テレビや映画をしっかりやっていきたいのであればやっぱり、外部対応の窓口となってくれる有能なマネージャーというのは、どうしても必要になってくるんです。
宮藤官九郎の舞台を“ドタキャン”した女優・満島ひかりが、やっぱりマネージャーと契約したワケ
長く所属した芸能プロから著名タレントが独立した例として個人的に思い出深いのは、女優・満島ひかりさんの例でしょうか。彼女は2018年に、先に挙げた役者系の中堅プロ、ユマニテを退社してしばらくは個人でやっていたようですが、2020年4月からは、「11歳の頃から自分を知ってくれている」という元マネージャーさんと、専属的な業務提携を結んでいます。
満島さんは「自分が納得できないことはやりたくない」というこだわりのスタンスで女優として成功し、しかしまさにそういった強いこだわりがある人だからこそ、長く所属したユマニテともたもとを分かつことになったのでしょう。独立当初はメールや電話の対応もひとりでこなしていたなんて話もありますが、現場でのちょっとしたトラブルが業界内でささやかれ始めたのもちょうどこの頃。実際、独立と同じ2018年8月には、宮藤官九郎さん演出の舞台作品からの一方的な降板が報じられたりもしました。もちろんご本人なりの思いとか考えがあってのことなのでしょうが、やはりマネジメントのすべてをひとりでこなすとなると、こうしたトラブルはどうしても起きがちになる。マネージャーという、本人と外部との間に入る“緩衝材”が何もないわけですからね。
そういう状況はさすがにまずいと本人が思ったのか、あるいはまわりからのアドバイスがあったのかはちょっとわかりませんが、そんなわけで、元マネージャーさんと新たな業務提携を結んだのでしょうね。
もちろん芸能人のなかには、すべてのマネジメントを自分でやることができる方もいらっしゃいます。故・樹木希林さんが、スケジュールの調整や出演オファーへの対応、ギャラ交渉などをすべて自分でこなしていたことは、よく知られていますよね。でも、それはやはり、非常に稀有な例。なんてったって樹木さんは、あの内田裕也さんと生涯を通して渡り合った方ですからね(笑)。
大部分の“普通の芸能人”にとって、マネジメント業務のすべてをひとりでこなすなんて、やっぱり至難の業。だからこそ、芸能人が存在し続ける以上、マネージャーという職業がなくなるということはないのかなと、個人的には思いますね。
(構成/エリンギ)