昨年12月3日、携帯電話業界に激震が走った。NTTドコモがスマートフォン向け料金プランとして、20GBまでデータ通信が可能で月額料金が税別2980円の新プラン「ahamo(アハモ)」を発表したのだ。
ドコモはこれまで、利用データ量で料金が変動する「ギガライト」と、料金が定額で大容量な「ギガホ」の2プランを展開。割引適用なしだとギガライトの最低月額料金は4G回線、5G回線共に1GB未満で税込3465円、ギガホの月額料金は4G回線だと毎月30GBで税別7150円、5G回線だと毎月100GBで税別7650円であった。
そのなかで出てきたahamoは、コストパフォーマンスに優れているというだけでなく、割引条件やオプションを少なくしたシンプルさで好評。2月5日の2020年度第3四半期決算会見では、発表当日から開始された先行エントリーの申し込み件数が100万件を突破したことが明らかになった。
だが、ahamoは原則オンライン手続きのためドコモショップでサービスが受けられない、キャリアメールなど一部のサービスが利用できない、ファミリー割引などの割引サービスが一切適用されないといったデメリットも存在している。
はたして、ahamoに切り替えることで本当にお得になるのだろうか。携帯電話業界に詳しいフリージャーナリストの法林岳之氏に話を聞いた。
乗り換えの決め手になるはこれまでのデータ利用量
ahamoが抱えているデメリットの多くは、メインとする年齢層に合わせた結果として生じているのだという。
「ahamoはドコモのなかでも若い世代の社員の方が、20代の人やシングルの人をメインターゲットとして考えたプランです。“若い人が考えた若い人向けのプラン”といってもいいでしょう。
料金割引がないことや、一部サービスに非対応なことも若い世代に向けたからこそですね。ファミリー割引の場合だとahamoの回線も家族グループにはカウントされるのですが、割引サービスの恩恵は受けないので、ahamoの人が電話をしても家族内通話無料にはなりません。
また、ahamo非対応のサービスの例として、留守番電話サービスが挙げられるのですが、今ではLINEやSMS(ショートメッセージサービス)で伝言を送ることができるので、留守番電話は使わないと判断されたのだと考えられます」(法林氏)
デメリットが気にならないという場合であっても、月々のデータ利用量によってはahamoよりもほかのプランのほうがお得になるケースもある。
「ahamoの提供に合わせるかたちで、『ギガホ プレミア』が4月1日から提供開始されることが発表されています。これはギガホに代わるプランで、4G回線では毎月60GBまで利用可能で税別6550円、5G回線では利用量無制限で税別6650円なので、実質的に利用料金が値下げされていますね。
このプランの最大の特徴として、データ利用量が3GB未満の月は利用料金が税別1500円安くなることが挙げられます。各種割引サービスを適用すればもっと価格を抑えることもできるので、3GB未満の月が多い人や、逆に毎月20GB以上利用するという人は、ahamoではなくギガホ プレミアに乗り換えたほうがお得だと思います。
自宅に固定回線がある場合はデータ容量が少ないプランを、固定回線がない場合はデータ容量が多いプランをという選び方もできます。いずれにしても、自分のこの半年~1年間のデータ利用量を一度確認してから、どの料金プランを選ぶか考えたほうがいいでしょう」(同)
家族で利用していてみんなドコモ割やドコモ光セット割が適用される場合、最大で2000円以上割り引かれるケースもある。ひと月のデータ利用量が3GB未満の月が多くて割引が適用されるという人は、ahamoに切り替えてもメリットは薄いだろう。
また、ドコモがahamoを発表したことに追随し、ソフトバンクは新料金プラン「LINEMO(ラインモ)」を、auは新ブランド「povo(ポヴォ)」を発表した。
それぞれ契約やサポートがオンライン完結で一部サービスがオミットされていると共通項が多いが、3社のプラン内容を比較するのはあまり意味がないと法林氏は語る。
「ahamoだと海外でデータ通信ができる国際ローミングが含まれているなど、3社のプランそれぞれに独自のメリットはありますが、現状では目立った違いがあるというほどではないですね。
今回の新プランは他社からの乗り換えが目的ではないですし、ドコモの場合はahamoに乗り換えても継続利用期間が引き継がれるので、キャリアを変えないほうがリスクは少ないでしょう」(同)
ahamoの登場で大きく変化していく携帯電話業界
20代向けの料金プランとして生み出されたahamoだが、ドコモ側にとってはもうひとつ別の目的があるのだとか。
「ahamoの手続きやサポートをオンラインで完結するようにしたのは、デジタルネイティブ世代をターゲットにしたプランだからというだけでなく、ドコモショップに頼らない売り方をしたいというドコモの意図によるものです。月額料金を低くしたのも、ショップでのサポートが受けられない代わりとしての側面があります。
業界全体として端末の購入や契約手続きをオンラインに移行しようとアプローチしており、そのなかでもドコモは端末修理をオンラインで受け付けるなど熱心に取り組んでいました。ahamoが軌道に乗れば、オンラインのサービスはさらに充実していくと考えられます」(同)
ahamoの提供開始による携帯業界への影響は、サービスのオンライン化だけに留まらない。
「格安スマホや格安SIMで知られているMVNO、特に法人ではなく個人向けにサービスを提供している会社は、これから厳しい戦いを強いられるでしょうね。
また、今ではWi-Fiがないところでも動画を視聴する人が増えたように、ひと月のデータ容量上限の基準が20GBに上がったことで、データ容量を以前ほど気にしない人も少し増えていくはず。ひと人当たりのデータ通信量自体も、これから増加していくのではないでしょうか」(同)
さらに、ahamo自体もサービス開始後に変化していく可能性が高いという。
「ahamoには現時点で対応するか明らかにされていない、あるいはサービスに含まれていないものがあるんですよね。例えばApple Watchのモバイル通信機能については、社長自身がインタビューで『あんまり考えていなかった』と発言されています。
ただ、提供しているドコモやNTTグループには、サービスを開始してから不足していたものを追加・修正していく傾向があります。提供開始時にあったデメリットが改善されたり、未対応のサービスや機能が追加されたりするかもしれません。
もし現状では対応するかどうかわからないサービスがネックで契約を迷っているのであれば、情報を集めて様子見するのも手かもしれませんね」(同)
20代のデジタルネイティブ世代および独身世帯に焦点を当て、見事にその狙いがハマったahamo。一方で、古くから携帯電話を活用しているユーザーや、月に20GB以上データ通信を行うヘビーユーザーにとっては不向きであることも事実で、ハッキリと人を選ぶプランともいえるだろう。
ahamoの提供開始日は3月26日。乗り換えて新たな文化に適応しようとするにしろ、従来通りのサービスや機能が利用できる別プランにするにしろ、お得にスマホを使うため今後の発表や提供開始後の動向に注目することをおすすめしたい。
(文=佐久間翔大/A4studio)