野球界はプロとアマの垣根を越え、2020年の東京オリンピックで「野球・ソフトボール」が正式種目に復活するように動いているが、それには日本オリンピック委員会と文科省の意向が強く反映される。
つまり、totoのプロ野球拡大を狙う文科省が、正式種目復活を“人質”にとるかたちで、長嶋、王両氏に口封じを迫っているのである。
長嶋氏も王氏も、内心はtotoのプロ野球適用に反対である。
「プロ野球を賭けの対象にしてしまったら、諸先輩方に申し訳が立たない」
2月のキャンプ中、王氏は日本野球機構の熊崎勝彦コミッショナーにそう語っていた。
長嶋氏は、プロ野球のファン層を子供や女性に拡大させることをライフワークとしている。「天覧試合をもう一度、開催したい」というのが同氏の悲願であり、周辺には「プロ野球が賭博対象になってしまったら、天皇陛下がご覧になる機会がなくなってしまうのではないか」とこぼしているという。
だが、東京オリンピックでの「野球・ソフトボール」正式種目復活は、長嶋、王両氏にとってなにより優先順位が高い。文科省は、それに付け込むかたちで、totoの適用拡大を進めようとしている。
王氏は周辺に「野球界が一致して動いており、その流れに逆行はできない」と語っているといい、脳梗塞のリハビリ中である長嶋氏については、関係者が「東京オリンピックの時にユニホームを着たい。それが、ミスターにとってリハビリの一番のモチベーションになっている」と明かす。
「プロ野球がtotoの対象になることにはご意見があると思いますが、発言は慎重にお願いいたします」
4月下旬、長嶋氏に読売新聞社幹部がそう耳打ちした。これに対して、長嶋氏は複雑な表情を浮かべたという。
「totoの議論が本格化する前に、早々にONが反対意見を表明したら、totoのプロ野球拡大は間違いなく頓挫する。ONには、ソフトボール界も含めて誰も逆らえないからだ」(関係者)
10月1日には、スポーツ庁が発足する。文科省としては、totoをプロ野球にまで広げて予算拡大を狙いたいわけだ。しかし、その露骨な動きは、いわゆる「文教族」の議員が「東京オリンピックを控えて、文科省は前のめりになっている」と眉をひそめるほどだ。
元巨人の堀内恒夫参議院議員は、こう憤る。
「いくら政治の世界とはいえ、ONをバーターの俎上に引き上げてしまう官僚の感覚にはついていけない」
自省の権益拡大のためにオリンピックを人質にとるようなやり方に、周囲は反発を強めている。
(文=編集部)