ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 道路、“歩行者優先”の罠
NEW
中谷明彦「クルマの匠(Professional)」

道路、“歩行者優先”の罠…「交通ルール守れば安全」との妄信が、あなたの命を奪う

文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家
道路、“歩行者優先”の罠…「交通ルール守れば安全」との妄信が、あなたの命を奪うの画像1
「Getty Images」より

 

「もう黙っていられない! このままでは車が嫌いになりそうだ」――。そんな思いが込み上げてきて一筆したためることにした。

 今世間を騒がせている高齢者による自動車運転過失事故。ブレーキとアクセルの踏み間違いによる運転操作ミスが、その原因の多くを占めている。だが本人に尋ねても、「踏み間違えた覚えはない」と答えるという。

 それはそうだろう。もし踏み間違えている自覚があるなら、ペダルから足を離しただろう。その時はブレーキペダルを踏んでいると信じてさらに強く力を込めていたに違いない。予測外の挙動に気が動転して身体が硬直し、ペダルから足を離せないことも理解できる。だが、これは高齢者に限った話ではない。それに最近起こり始めた特別な事象でもないはずだ。

 自動車が普及し始めた直後から交通事故は起こり、多くの犠牲者がこれまでずっと出続けている。筆者が幼かったころ(半世紀も前だが)、すでに「交通戦争」という言葉が周知され始めていた。「歩行者が道路を渡るときは横断歩道を渡りましょう」「右見て左見て、もう一度右見て」など、特に歩行者の車に対する危険認知を徹底させる教育をしていた。

 それはそうだろう。人と車が衝突すれば、どちらに過失があったとしても身体に大きな害を受けるのは歩行者のほうだからだ。「飛び出すな、車は急に止まれない」というような標語が日本全国の横断歩道や通学路などに掲げられていた。

 それが今はどうだろう。歩行者は歩道を歩き、横断歩道を渡っていれば絶対に安全が保証されているかのようだ。歩行者と車が衝突したときの優位性は変わっていないのに、まるで歩道や横断歩道を歩き、歩行者がルールを守ってさえいれば安全が担保されているかのように思わされている。担保されるのは法律上の過失割合の優位性だけであって、怪我をしたり命を落とすのは歩行者のほうという事実は変わっていないのに。

 道路交通法上は、歩行者は絶対優先であり、赤信号を無視して道路横断していても、車がはねれば運転車の安全運転義務違反になる。歩行者優先ルールが徹底されることは悪いことではないが、それにより危機に対する意識が希薄となってしまってはいないか。信号を守り横断歩道を渡ってさえいれば、事故に遭うことはあり得ないと信じ切ってはいないか。

「車は走る凶器」

 交通戦争の時代、「車は走る凶器」などとも形容された。運転を誤り人混みに突っ込んだら、一発の銃弾よりはるかに多くの人を傷つけ、命を奪うだろう。車は使い方次第で拳銃よりも殺傷力の強い凶器となるのに、交通ルールを徹底させるだけで安全な乗り物であるという誤った認識に誰もが陥っていると感じる。

中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

武蔵工業大学工学部機械工学科卒。15歳でカートを始め大学在学中にフォーミュラカーデビュー。卒業後はカートップ誌編集部員として働き1985年にプロ・レーサーへ転向。1988年全日本F3選手権でチャンピオンを獲得し、以降全ての全日本選手権、全ての国内サーキットで優勝を納める。三菱自動車ランサー・エボリュ−ションV〜Xの開発に寄与し、スーパー耐久レースではランエボを駆って50勝を記録。5回の年間覇者となる。バサーストやマカオGP、ル・マン24時間レースなど海外レース活動経験も豊富だ。1997年にドライビング理論アカデミー「中谷塾」を開設し、佐藤琢磨(第一期生)を輩出した。ドライビングやメカニズムの理論に精通。近年は中国メディアでも活動し、知名度が高い。2018年5月に慢性骨髄性白血病を発症したが、抗がん剤治療を受けつつ活動を継続。日本の代表的名ドライバーとして「Legend Racing Drivers Club
」のメンバーでもある。

Twitter:@nakaya_juku

道路、“歩行者優先”の罠…「交通ルール守れば安全」との妄信が、あなたの命を奪うのページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!