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中谷明彦「クルマの匠(Professional)」

道路、“歩行者優先”の罠…「交通ルール守れば安全」との妄信が、あなたの命を奪う

文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

 たとえば、切れ味鋭いカミソリを持って人混みの中を歩けるだろうか。高齢となり運動能力に衰えを感じたら、カミソリを自分では扱わなくなるだろう。歩いている人がカミソリを持っていたら、絶対に近づかないだろう。車に対しても同じくらいの危険意識を持っていれば、道路に溢れる車に近づこうとは思わない。

 そんなことを言っていたら、車のある社会生活が成り立たなくなる。しかし現実にはそう考えなければ対処しようがない悲惨な事故が起こり続けているのだ。

 運転操作ミスは高齢者だけに限ったことではない。老若男女を問わず、操作ミスによる事故は起きている。若者の車離れが始まり、団塊世代が高齢運転者となって統計的には高齢者による事故が増えているのはわかるが、実際にはあらゆる世代で同様な事故は起こっている。

 少し前までは「煽り運転」がマスコミを賑わせていた。高齢者による事故がクローズアップされている現在も、煽り運転がなくなったわけではない。筆者も運転していれば、1日に数度は無謀なドライバーに出くわす。車間を詰め、幅寄せし、前に出て急ブレーキを踏むなど日常茶飯事だ。

 そうしたドライバーにも「車は走る凶器」という認識がまったく欠如している。彼らは他人に向かってナイフを突きつけ、カミソリを振り回し、拳銃の銃口を向けるのと同じくらい危険な行為に及んでいると認識すべきだ。

自動運転車への誤解

 一方で、こうした悲惨な事故や危険行為は、自動運転車の開発で回避できると考えられている。多くの専門家やマスコミもさかんに自動運転について取り上げアピールしているが、「何を言っているんだ、目を覚ませ!」と言いたい。自動車の運転はそんなに簡単なことなのか?

 確かに自動運転技術は日進月歩で進化している。しかし街中を日常の交通手段として自動運転車が縦横無尽に走り回る、なんていうのは100年経っても達せられまい。一部の限られた地域やルートでは可能になり、それが順次拡大していくのは間違いないが、それまで現状の危険な状況を見過ごして待っているわけにはいかないではないか。

 まず車を「危険な物」として歩行者も運転者ももう一度しっかり認識し、うかつに近づかない、近寄らない。歩行者優先は法律上の立ち位置のことで、現実社会では横断歩道や歩道、歩行者専用道路でも車を見たら用心するという意識を再認識すべきだ。危険運転をするドライバーには凶器を振り回すのと同じレベルの刑事責任を負わせてもいいと思う。

 そうして運転者も歩行者も各々が責任を自覚できる社会教育、環境整備が整わないと、交通戦争はいつまで経っても過去のこととはならないと筆者は案じている。

 次回は道路交通政策や自動運転技術について物申す。

(文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家)

中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家

武蔵工業大学工学部機械工学科卒。15歳でカートを始め大学在学中にフォーミュラカーデビュー。卒業後はカートップ誌編集部員として働き1985年にプロ・レーサーへ転向。1988年全日本F3選手権でチャンピオンを獲得し、以降全ての全日本選手権、全ての国内サーキットで優勝を納める。三菱自動車ランサー・エボリュ−ションV〜Xの開発に寄与し、スーパー耐久レースではランエボを駆って50勝を記録。5回の年間覇者となる。バサーストやマカオGP、ル・マン24時間レースなど海外レース活動経験も豊富だ。1997年にドライビング理論アカデミー「中谷塾」を開設し、佐藤琢磨(第一期生)を輩出した。ドライビングやメカニズムの理論に精通。近年は中国メディアでも活動し、知名度が高い。2018年5月に慢性骨髄性白血病を発症したが、抗がん剤治療を受けつつ活動を継続。日本の代表的名ドライバーとして「Legend Racing Drivers Club
」のメンバーでもある。

Twitter:@nakaya_juku

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