東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務める森喜朗元首相が20日、福岡市内の講演で、ソチ冬季五輪に出場しているフィギュアスケート女子の浅田真央選手が、ショートプログラム(SP)で16位と出遅れたことについて次のように発言したというものだ。
「見事にひっくり返ってしまった。あの子、大事なときは必ず転ぶ」
「負けるとわかっている団体戦に出して恥をかかせることはなかった」
これらの言葉を取り上げ、「配慮を欠く発言」だと指摘する論調が複数のメディアで散見され、インターネット上などを中心に森氏を非難する声が高まり、炎上状態となっている。
●発言の趣旨とマスコミ報道の食い違い
しかし、この講演の内容を書き起こした2月21日付TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』の公式ウェブサイト記事「森喜朗 元総理・東京五輪組織委員会会長の発言 書き起し」を読むと、森氏の発言の意図は明らかに違うベクトルに向いている。
「(出場選手30人の)一番最後に真央ちゃん。なんとか頑張ってくれと思って皆見ておられたんだろうと思いますが、見事にひっくり返っちゃいましたね。あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね。なんでなんだろうなと。
僕もソチ行って、開会式の翌日に団体戦がありましてね、あれはね、出なきゃよかったんですよ日本は。(略)もう(団体戦に出場した選手)皆(演技が)ダメで、せめて浅田さんが出れば3回転半をすると、3回転半をする女性がいないというので、ひょっとすると3位になれるかもしれないという淡い気持ちで、浅田さんを出したんですが、また見事にひっくり返っちゃいまして、結局、団体戦も惨敗を喫したという。その傷が浅田さんに残っていたとしたら、ものすごくかわいそうな話なんですね。
団体戦は負けるとわかってる。団体戦に何も浅田さんを出して、恥かかせることなかったと思うんですよね。その、転んだということが心にやっぱり残っていますから、自分の本番の昨日というか今朝の明け方は、なんとしても転んじゃいかんという気持ちが強く出てたんだと思いますね。いい回転をされてましたけど、ちょっと勢いが強すぎたでしょうかね。ちょっと転んで手をついてしました。だから、そういうふうにちょっと運が悪かったなと思って見ております」(同記事より引用)
この文からは、森氏は浅田選手を応援し、SPでのジャンプ失敗の要因を分析した結果、メダルの可能性が極めて薄い団体戦に出場させたことが一因だとの考えを持っていることが読み取れる。むしろ、浅田選手をかばおうとして、団体戦に出場させる判断を下した日本スケート連盟を暗に批判しているようにさえ見え、メディアがこうした文脈を無視して森氏の発言の一部を恣意的に取り上げ、批判を行っている感は否めない。
確かに、日本体育協会名誉会長、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長という影響力の強い立場にあることや、まだフリープログラムが残っているタイミングでの発言ということに鑑みると、いささか不用意であったといえよう。
だが、かつて森氏は、首相在任時代に失言を連発して支持率が低迷した過去があり、各メディアは今回も森氏の失言を狙って恣意的な報道を行っているようにも受け取れる。
(文=マサミヤ)