スクリーンに「ペプシNEXZERO」「コカ・コーラ ゼロ」と大きく映し出されたとある記者会見の会場。壇上の女性が「ペプシ!」と商品名を読み上げると、青い服を着たペプシ陣営が大喜びし、スクリーンには「61%、31%」という円グラフが映し出される。
最近、流れている「ペプシNEXZERO」(サントリー)のCMですが、ライバルである「コカ・コーラ」と比較して「どちらが美味しいか」を直接的に表現するもので、最初に見た時はさすがにびっくりしました。
画面下には、小さく「調査をもとにしたCM上の演出です」と映し出されていますので現実に行われた記者会見ではないことがわかりますが、あまりこの手のCM手法に慣れていない我々日本人としては、戸惑いすら覚えてしまいます。
そこで今回は、こういった「比較広告」が許されるのか、「景品表示法」上の考え方からひも解いていきたいと思います。
そもそも、商品のキャッチコピーやCM上の表現も、憲法上の「表現の自由」に該当するものですので、他社の名誉を棄損したりしない限り、「違法」とされることはないはずです。
もっとも、景品表示法(景表法)は、「自社の商品の内容や取引の条件について、競業他社の商品よりも著しく優れている、有利である、と誤解されるような表示」を「不当表示」として禁止していますし、公正取引委員会は、このようなキャッチコピーなどに対し差し止めなどの命令を行うことができるとも規定しております。
このような規制があるため、日本では、競業他社の商品と比較して自社商品をアピールする方法、いわゆる「比較広告」を“忌避”する傾向が強かったわけです。
規制を緩めた行政解釈
しかし、実は、1987年から公表されている「比較広告に関するガイドライン」では、
(1)比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
(2)実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
(3)比較の方法が公正であること
という3つの要件を満たせば、「比較広告」は違法ではない、という方針をとっています。いわば、行政の解釈によって、法律の規制を緩やかにしているわけです。したがって、「比較広告」自体が許されないわけではないのです。
例えば、「A社の商品より10%安い」といったものならば、「値段」の点が事実であれば(1)と(2)は簡単にクリアできるでしょうし、後は、比較する商品の内容量、大きさなどの点で不当なものでなければ(3)もクリアできるでしょう。
また、「コカ・コーラより美味い」といった消費者の主観が入るようなものであったとしても、「100人中、60人の『美味い』という回答による」といったアンケート調査などに基づいたものであれば、(1)と(2)はクリアできるでしょうし、アンケート方法が公正であれば(3)も満たすことでしょう。
さらに、最近では、俳優の堺雅人を起用した「他社より~」という内容のソフトバンクモバイルのCMが流行っていますが、このCMも、実験や実証に基づいたものであることから、「比較広告」として許されているわけです。
なお、「比較広告は欧米ではよく行われている手法である」と説明されることがありますが、これは間違いです。確かにアメリカはかなり自由に行われているようですが、ヨーロッパ諸国では「比較広告に関する指令」などで、この種の広告は厳しく制限されているようです。
(文=山岸純/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ執行役員、弁護士)
●弁護士法人アヴァンセリーガルグループ
東京、大宮、大阪に拠点を持つ、法律のスペシャリスト弁護士法人。特に企業法務全般、交通事故・医療過誤等の一般民事事件、および離婚問題・相続問題等の家事事件に強みを持つ。また、無料法律相談も常時受け付けている。