一連の騒動をめぐっては、安倍晋三首相をはじめとする政府要人からは『美味しんぼ』に批判的な発言が相次ぎ、中でも環境行政を司る環境省の石原伸晃大臣は、「専門家からは福島第1原発の事故による被ばくと鼻血との因果関係はないと評価が出ている。風評被害を引き起こすようなことがあってはならないと思う」とコメントし、話題を呼んだ。
このように政府が『美味しんぼ』に批判的な姿勢をみせている背景について、国土交通省の外郭団体幹部は次のように語る。
「まずは金ですね。政府は原発事故の被害を受けた土地の買収費や住民の医療費、被ばく補償の総額を試算しています。その額は莫大ですから簡単には認めない。『風評など風化してほしい』というのが本音ではないでしょうか」
原発事故直後、日本に滞在していた外国人が各国政府の避難勧告で日本から脱出し、日本政府も管理区域を設定し人々の出入りを禁止したほど、放射性物質による被ばくの危機が懸念視された。にもかかわらず、自民党の現役閣僚が「科学的根拠なき風評に過ぎない」と発言することに対しては批判の声も寄せられている。
今年3月まで行われた福島県の調査では、県内30万人の子供の中で甲状腺がん発症が「確定」されたのは50人、「疑い」を入れると89人に上った。「10代の甲状腺がんは100万人に1~9人程度」(国立がん研究センター)という確率と照合すれば、驚異的な発症率だ。さらにこの数値はあくまで現時点でのデータに過ぎず、鼻血を含む多様な症状の報告がある旧ソ連・チェルノブイリ原発事故(1986年)では、事故から4~5年後に子供の甲状腺がん発症が増加している。
もし、『美味しんぼ』が描く、事故現場である土地にいた人々の「鼻血が出た」という告白が事実であれば、「風評被害を招く」「因果関係を示せ」などと『美味しんぼ』を責め立てる政府の姿勢には、疑問を感じざるをえない。
(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)