北朝鮮のエンタメ事情に詳しい韓国のインターネット新聞・デイリーNKの高英起氏は、次のように語る。
「韓流ドラマやK-POPなどの流入もあり、日本で考えられている以上に人民の目は肥えていると思います。表向きは厳しく統制されていますが、幹部などはパラボナアンテナを使って韓国内での放送翌日には視聴できていますし、実際に中朝国境付近で聞いたところ、およそ8割の人民が人気韓流ドラマの話の筋くらいは知っていた。情報感度はとても高い」
ドラマの影響は、女性たちのメイクやファッションにも如実に表れている。記者も昨秋渡朝した際、特に若年層は男女ともに垢抜けた服装をしている者が多く、髪型一つとっても規制のある中で各自が工夫している様が印象的だった。携帯電話の着信音が“絶対に見ていない”はずの韓流ドラマのメロディだったりもした。
近年、芸術分野以外のエンタメ、レジャーも盛んだ。昨年秋に竣工した、敷地面積10万9000平米に及ぶ平壌の紋繍(ムンス)プール、5000mのゲレンデがある馬息嶺(マシンリョン)スキー場、乗馬クラブなど。
18年に韓国・平昌(ピョンチャン)で開催する冬季五輪について「北朝鮮のスキー場と共同で開催できれば、人的交流が活発化することで統一に向けての足がかりになる」と猪木氏は期待する。また「平壌以外、地方都市にもほとんど行きました。白頭山、金剛山などの五大名山めぐり。それから猪鹿のハンティング。1日目に5頭、2日目で6頭、計11頭を撃ち、プルコギにした」と話す。
サーカスや牡丹峰楽団(モランボン楽団)の演奏などは、世界にも引けをとらない高い技術力を誇る。
現在は北の小中学生の間で「ギターブーム」が起こっているそう。ギターは以前から大衆楽器として人気があったが、最近では軍隊や建設現場などで「宣伝隊」として活動できるとして、生活の糧として学ぶ者が増えているという。
このようにエンタメ土壌が固まりつつあるのは、ごく最近のことだと高氏は話す。
「猪木さんがプロレス興行をした95年当時は経済難の時代で、食べるものも満足になく、唯一の娯楽ともいえる試合を、人々は大きな期待と興奮に包まれて観たでしょう。徐々に経済事情が安定していく中、韓流の趨勢や携帯電話の普及も手伝い、2000年代半ばあたりから西側文化の影響を受け洗練された世代が目立つようになった。目が肥えてきた北朝鮮人民にとって、今回のイベントは以前とはまた違ったレベルの高い楽しみ方ができる格好の機会に違いない」
●今大会を日朝外交の起爆剤に
前回の会場となった綾羅島メーデー・スタジアムが修復工事中の関係で、今会場の収容人数は約1万5000人。マスコミを除けば、一般人民の動員は2日間で約2万5000~6000人。エンタメ市場が盛り上がりを見せているとはいえ、このような大型の舞台設営を伴う音楽・スポーツ興行などは、政府公認でなければ100%開催不可能だ。
それだけに人民にとってこうしたイベントは垂涎の的。かつて北朝鮮の大規模イベントで会場を埋めたのはほとんどが動員された人々だったが、いまではなけなしの小遣いをはたいてでもチケットを購入する。まれにサッカーのワールドカップ・アジア予選の試合などが国内で行われると、観戦券がヤミで流通し、超高額な「プレミアチケット」まで登場するという。
注目の出場選手は、「身長230cmの“アマゾンの大巨人”モンターニャ・シウバ選手。北朝鮮の人はこんなに大きな人を見たことがないでしょうね。それにキックボクシングベースの格闘技・K-1のジェロム・レ・バンナや、バスを引っぱる筋肉マンなどが注目です」と日本以外にアメリカ・メキシコ・ブラジル・フランスなど、各国から20人ほど選手を招く予定だと猪木氏。今イベントは世界に生中継で放送される予定だ。