では、腹腔鏡手術は本当に危険なのか。
腹腔鏡手術とは、腹部に5~10ミリメートル程度の孔を数カ所開け、そこからカメラ、電気メス、手術器具を入れて、モニターに映し出された映像を見ながら行う手術である。これは、従来の開腹手術と異なり、傷口が小さくてすむ。また、術後の回復や感染症予防にも良いとされている。
したがって、ここ10年ほどで急速に普及し、胃がんや大腸がんでは、今では半数以上の手術が腹腔鏡で行われるようになった。食道がん、乳がんでも普及し、最近では肝臓がん、膵臓がん、胆嚢がん、前立腺がんなども腹腔鏡手術を選択する医師が多くなった。
しかし、ミスが続発しているように、その安全性には疑問が残る。というのは、手術を行う医師の腕によって結果が大きく異なるからだ。器用か不器用かで天と地ほど違うのだ。実際のところ、開腹手術であれば肉眼で見ながら切除ができるが、腹腔鏡の場合はカメラを“目”の代わりにする。この点だけでも、医師の腕が問われる。
ベテラン医師でも信用できない?
じつは、肝胆膵外科医の世界では、「いつか大きなミスが起こるのでは」と囁かれていた。それは、この手術ができることを自慢する医者や、それで患者を集める病院が増えたからだ。肝胆膵がんの手術は、開腹手術でも一歩間違うと合併症が起こるため、消化器外科のなかでも難しい手術に属する。なかでも最高難度とされるのが、肝門部胆管がんだ。
にもかかわらず群馬大学や千葉県がんセンターのケースでは、これを腹腔鏡で行っていた。しかも、保険適用外の「実験レベル」といってもいいレベルの手術をしていた。厚労省によると、腹腔鏡による肝臓の切除手術については、「部分切除」と「外側区域切除」には保険が認められているが、それ以外は適用外となっている。
つまり、これは医療ミス、事故というより犯罪だ。交通事故にたとえるなら、運転免許証は持っているが運転が下手な運転手によって引き起こされた死亡事故で、業務上過失致死罪に当たる。しかし、医者はこの罪には問われない。
今や日本人の2人に1人ががんになる時代。がんの手術数は急増している。それだけに、手術を受ける場合は安易に腹腔鏡を選ぶべきではない。また、それ以上に、誰に手術をしてもらうか、執刀医選びは大切だ。千葉県がんセンターで事件を起こした執刀医は、腹腔鏡手術の実績が200件を超えるベテランの医師だった。ベテラン医師でも信用できないのである。
(文=富家孝/医師、イー・ドクター代表取締役)