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片田珠美「精神科女医のたわごと」

槇原敬之、薬物に依存しやすい性格傾向…懲役より治療が必要

文=片田珠美/精神科医
槇原敬之、薬物に依存しやすい性格傾向…懲役より治療が必要の画像1
槇原敬之のInstagramより

 歌手の槇原敬之容疑者が覚せい剤取締法違反容疑(所持)で逮捕された。この逮捕を受けて、俳優の梅沢富美男さんが『バラいろダンディ』(TOKYO MXテレビ)で

「執行猶予がつくからやめられないんだよ! どんな形でもいいから覚せい剤をやったら懲役にいく、そういう法律を作らないとあとを絶たないと思うよ」

と発言したと聞き、私は唖然とした。

 これは、「たるんでいるから、ひきこもりになるのであり、徴兵制を導入して、厳しい規律の下で半強制的に集団生活を送らせるべきだ」という主張と同じくらい短絡的で乱暴な意見だと思う。

 そもそも、刑務所に入ったからといって、覚せい剤をやめられるわけではない。これは、過去のケースを見れば明らかだ。たとえば、歌手の清水健太郎さんも、タレントの田代まさしさんも、元体操五輪代表の岡崎聡子さんも、何度も覚せい剤取締法違反で逮捕されており、当然服役したはずだが、出所後に再犯を繰り返してきた。

きちんと治療を受けるべき

 このように覚せい剤をなかなかやめられないのは、依存症という病気のせいなのだから、そのための治療を受けなければならない。残念ながら、現状では治療プログラムを受けられる刑務所は限られているので、覚せい剤依存症の患者が出所後にまた覚せい剤に手を出して再逮捕されるのは、仕方がないともいえる。

 もちろん、刑罰にまったく意味がないわけではなく、それなりの抑止力にはなると思う。また、刑務所に入っている間は覚せい剤を購入することも使用することもできないので、クリーンな体になって出てこられる。

 ただ、以前私の外来に通院していた50代の元受刑者の男性は、覚せい剤取締法違反で何度も逮捕され、刑務所に入っていたのだが、「ムショにいた間は、『出たら、あの売人のところに行ってクスリを買う』ことしか考えていなかった」と話した。

 この男性は、覚せい剤取締法違反による逮捕と服役を繰り返しているうちに、家族にも友人にも見捨てられ、経済的にも困窮して、生活保護を受給するようになった。お金がないので、覚せい剤を購入することができず、アルコールに依存するようになり、精神科を受診した。すると、今度は睡眠薬や抗不安薬などの処方箋薬に依存するようになったのだ。

 このように依存対象が移り変わることは少なくない。ゲートウェイドラッグ(門戸開放薬)として有名なのは大麻だが、最近10代の乱用が問題になっている咳止め薬風邪薬などの市販薬から、覚せい剤やコカインなどのハードドラッグに移行することもある。

 依存する薬物が何であれ、その根底にあるのは依存しやすい性格傾向だ。これには、さまざまな要因がからんでいるのだが、最も重要なのは、つらい出来事があっても弱音を吐けず、他人に頼れないことだと思う。皮肉なことに、他人に依存できないからこそ、薬物に依存するしかなくなる。

 他人に依存できないのは、プライドと孤立のせいであることが多い。一流のアーティストが薬物に走ることが少なくないのは、プライドが高いうえに孤立していて、重圧に苦しんだり、作品制作に行き詰まったりしても、誰にも相談できないからだろう。こうした傾向に気づくためにも、自分自身が依存症であることを自覚し、きちんと治療を受けるべきである。

(文=片田珠美/精神科医)

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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