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京都産業大学、クラスター化の全貌、11府県に感染拡大…他大学でも前期授業休止の懸念

文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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京都産業大学 HP」より

 人気タレント・笑福亭鶴瓶の母校、京都産業大学(京都市北区)が「大学初」ともいえる新型コロナウイルスのクラスター(感染者の集団)になってしまった。その瞬く間の広がりが恐ろしいばかりだ。そして大学の授業は今後、どうなるのか。

 京都市などの調査によると、京都産業大では4月1日午前0時時点で、学生27人の感染が判明したという。感染範囲は京都府をはじめ、大阪府、兵庫県、和歌山県、滋賀県、石川県、富山県、岡山県、愛媛県、香川県、徳島県の計11府県にまであっという間に広がった。春休みの時期とも重なっており、帰省先で感染が確認された学生も多いためだ。

 京都府では、3月31日に新たに合わせて13人の新型コロナウイルスへの感染が確認されたが、このうち9人が京都産業大学の学生とその接触者とみられている。11府県で確認された京都産業大学の学生から始まったとみられる感染者は4月1日現在、合計42人になった。京都府の西脇隆俊知事は3月30日に開いた対策本部会議で、「クラスターの可能性が非常に高い感染が確認されており、予断を許さない状況」と危機感を見せていたが、その通りの事態になりつつある。

 経路を手繰るとやはり学生による「ウイルス輸入」だった可能性が濃厚。3月2日から13日までフランス、イギリス、スペインに卒業旅行していた同大学の男子学生4人のうち、3人が感染した。そのうち2人が3月22日にカラオケ店や居酒屋で開かれたサークルの懇親会に出席した。そこでさらに別の男女2人が感染した。

 さらに欧州旅行していた男子学生の1人が21日に行われたゼミの卒業祝賀会(送別会)に出席していた。そこでは31人が参加していたが、このうち男子7人、女子5人の計12人に感染した。このうちの1人と和歌山県主催のセミナーで一緒だった徳島県の男性も感染してしまう。加えて23日に行われた交流会に出席していた、京都府南部の井手町の職員5人が、新型コロナウイルスに感染していた。人口約7000人の同町では町役場の本庁舎を閉鎖し、消毒に追われ、町民のために別の場に臨時窓口を開くなど大わらわだった。この職員をはじめ、感染が判明した学生と交流のあった人にも感染が広がっている。

 滋賀県の三日月大造知事は3月31日、「京都産業大学の学生さんと濃厚接触していたと思われる女性が感染していたようです」と会見し、大津市内の20代の女子学生が京都産業大学のゼミの送別会に参加していたことを明らかにした。

構内への立ち入りを禁止

「大学クラスター」となってしまった疑いの強い京都産業大学の「お膝元」の京都市は、ほかの自治体とも連携して感染した学生の濃厚接触者について調査を進めている。京都産業大学では新学期の授業開始日を4月6日から5月11日に大幅に延期。さらに5月4日までキャンパス内への不要不急の立ち入りを原則禁止した。

 一方、京都市役所の担当者は京都産業大学から広範囲な連鎖感染になったことについて「カラオケ店などにゆく学生の行動が、 (1)密閉(2)密集(3)密接という、政府が感染リスクの高まる条件としている『3密』の条件にぴったりになってしまっている。絶対に控えてほしい」と話す。

 県立広島大学(広島市南区)では3月に卒業した女性(福岡県在住)が新型コロナウイルスに感染したことが判明した。女性は3月5日から14日まで友人とドイツ、イギリス、フランス、スペインを旅行していたという。ところが帰国すると鼻水やのどの痛みなどの症状が出ていたため、PCR検査すると新型コロナウイルスの陽性反応が出た。現在、福岡県内の医療機関に入院しているという。このため同大学では卒業生に対して4月6日まで就職先への出社を見合わせるよう呼び掛け、卒業式に出席していた数十人の健康調査を進めている。

遠隔授業へのハードル

 京都産業大学と県立広島大学では入学式や新入生歓迎行事も中止になったが、各大学は授業を始められるのだろうか。感染者は出ていない甲南大学(神戸市東灘区)法科大学院の園田寿教授は、「4月20日から授業を始める予定ですが流動的です。学生証の交付も職員だけで行うので、教員は来ないように言われています」と話す。

「大学は授業開始日が延長された場合の遠隔の授業なども検討していますが、環境が整っていない。インターネット授業をするにも学生側の通信料が高くなってしまうのが問題。とはいえ、なんとかしないと前期の授業がすべて飛んでしまうかもしれない」と心配そうだ。

 ちなみに感染を告知された人が不用意にカラオケ店などに行き、ほかの人が感染して死亡したり仕事に支障をきたしたりした場合、原因となった相手に損害賠償請求などはできるだろうか。

「それは極めて難しい。かなり可能性が高くても因果関係が明確には立証できない。カラオケ店に行って感染したとみられる人も、ひょっとしたら帰路の電車で感染したかもしれません。水俣病など公害では疫学的に因果関係が認められたりするが、国内の伝染病予防法などでも罰則のようなものはない。海外のように外出禁止令で罰則でも付いていれば別ですが」(園田教授)

 とはいえ、もし「若いから死ぬことはない」とばかりに若者が遊び歩き、結果として高齢者が感染して死者が増えたりすれば、罰則付きの緊急措置法が発令されてしまう可能性も否定できない。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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