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目からウロコの歯の話

歯の周りの組織破壊され歯が抜ける歯周炎…治癒&予防困難な場合も!

文=林晋哉/歯科医師

歯の周りの組織破壊され歯が抜ける歯周炎…治癒&予防困難な場合も!の画像2歯の構造図(オレンジ部は歯肉に限局した歯肉炎で歯周組織は破壊されません。赤斜線部は歯周炎によって破壊される歯周組織。歯の支えがなくなり抜けてします)

 しかしながら、長年臨床にたずさわっていると、歯周炎についてこの理屈では説明できない症例に多々遭遇してきました。

 たとえば、徹底したスケーリングや歯ブラシや歯間ブラシ、フロスなどでプラークの除去ができている患者さんで、歯肉に炎症所見がなくても明確に歯周組織の破壊が起こり、いわゆる歯茎の下がった歯根の露出した状態になることが少なくありません。また、その多くはすべての歯に起こらず、前歯だけあるいは奥歯だけ、ときには1本の歯の片側だけで起こり、反対側は大丈夫だったりすることも珍しくありません。

 口はひとつの入れ物ですから、細菌性の炎症であれば、その中に入っている歯肉はすべて同じ細菌に感染し、その結果として症状や炎症の所見があるべきだし、プラークのコントロールができれば歯肉炎から歯周炎に進行しないはずです。また、歯周病の原因菌が特定されているのであれば、すでにワクチンが開発されていていいはずです。

 筆者は歯科大学生時代から「歯周病は細菌のせいで起こる」と叩き込まれ、卒業後30年近くを経過した今まで、そういうものだという考えで診療に携わってきましたが、日常臨床で持っていた歯周炎に対する違和感への答えが今回の論文で得られました。

 いつの時代でも、100%の真実とわかっていることは、そう多くはありません。地球の年齢が科学の進歩に伴って年々変わったり、それまで真実と思われていた教科書の内容が書き直されるのは致し方のないことです。重要なのは事実を認め、それに合った体制に速やかに変換することです。

 今回の論文でわかったことは、ブラッシングで歯肉炎の改善や予防はできるが、根本的な歯周組織を破壊していく歯周炎については、症状の改善には寄与できても治癒や予防は難しいという事実です。

 また、この論文は2013年に発表されましたが、一部のメディアに取り上げられただけで、なかなか広まっておらず、歯科医師でさえほとんど知らないというのが現状です。

 医療の目的は、「唯一無二、患者のためであること」でしょう。真摯な議論がされ、本当に歯が抜けていかないような歯周炎の治療法が早く確立することを切に願います。
(文=林晋哉/歯科医師)

総説「歯周炎薬物治療のパラダイムシフト」はこちら

林晋哉/歯科医師

林晋哉/歯科医師

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(歯科医療研究センターを併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)、『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」: -あなたもいつか歯を失う』(パブフル)など多数。

林歯科・歯科医療研究センター

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