10月13日の記者会見で河野太郎デジタル大臣は、現在の保険証を2024年秋に原則廃止し、マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認等システムに一本化する方針を明らかにした。これを受け、現状の普及率が49%、保険証との紐付けが約20%と低迷しているマイナンバーカードの普及も一気に広がると思われる。
しかし、その期待に反し、導入に反対する医師の声も少なくない。実は、医師VS政府という思わぬ対立が勃発しており、全国保険医団体連合会はオンライン資格等システム導入義務化の撤回を求める声明を出している。果たして、国民にとってマイナンバーカード取得の実質的義務化は、メリットとなるのだろうか。
マイナ保険証のメリット
政府は、マイナ保険証の普及推進において、そのメリットは患者と医療機関の双方にあるとアピールしている。
マイナ保険証を持つことで、病院を変えるたびに同じ検査を強いられることもなくなり、薬局で毎回聞かれる「お薬手帳をお持ちですか?」という面倒なやりとりもなくなる。それは、薬の情報を一元化することで多剤投与の解消にも有益であり、国民の健康を守るツールとなり、同時に医療費の削減にも繋がることになる。
一方、デメリットは、紛失した際の個人情報の漏洩リスクがもっとも懸念される点だろう。この点は、システムのセキュリティ強化と各自のマイナカード管理徹底が必要である。
日本医師会は推進
オンライン資格確認等システムに関して、日本医師会へ取材を申し込んだところ、「オンライン資格確認につきましては、9月14日の日本医師会定例記者会見での内容が、現時点の日本医師会の見解になります」との返事だった。
この定例記者会見で長島公之常任理事は、「日本医師会として、地域医療をしっかりと守りつつ、医療DXの基盤となるオンライン資格確認の推進をさらに加速していく」と述べた。
医療機関は、患者がマイナ保険証をしようするために必要なカードリーダーを設置する必要があるが、その普及率は現状33.5%であり、普及が進んでいないことが明らかである。これに対して日本医師会は、オンライン資格確認の導入に当たって、どう進めればいいかわからない医療機関のために「オンライン資格確認導入に向けたフローチャート」を日本医師会独自に作成したことを明かした。
現場で診療にあたる東京都医師会のある医師は、自身のクリニックでもカードリーダーの導入を進めており、自身の体験から導入にはサポートが必要だと話す。
「私も色々と大変でしたが、今月中に導入が終わる予定です。東京都医師会としては、医療DXに必要な仕組みと考えています。現場の年配の医師や、一人でやっているようなクリニックでは、導入も大変だと思いますし、維持費など運用面でも厳しいかもしれません。国が本当に日本中の全部の医療機関に導入したいのであれば、もっときめ細やかに現場の先生が安心できるような対応をしてほしいと思っています」
医師会の足並みは揃っているように感じるが、全国保険医団体連合会はオンライン資格等システム導入義務化の撤回を求める声明を出している。
全国保険医団体連合会とは
全国保険医団体連合会は全国47都道府県・51保険医協会・保険医会で結成され、保団連に加盟しており、加入者は現在10万7000人を超え、開業医の63%が加入している。つまり、開業医の半数以上が、オンライン資格確認等システムの導入の撤回を求めていると捉えることもできる。
あくまで筆者個人の見解ではあるが、マイナ保険証が普及すれば、患者は複数の医療機関を受診し、同じような薬を処方される、いわゆる“ドクターショッピング”ができなくなる。その結果、医療機関にとっては、現在よりも患者獲得が難しくなり、患者が減る可能性もある。そういったことが、全国保険医団体連合会がオンライン資格確認等システムの導入に反対する理由の一つかもしれない。
また、医療現場で導入が進まない理由には、ハード面の問題もある。都内で開業するある医師は、その現状をこう話す。
「導入の手続きしているのですが、必要なパソコンがまだ納入されていません。オンライン資格確認等システムの導入に対応するパソコンを購入しなければ始められず、しかもそれは1台53万円します。7月に注文したのに、まだ届きません」
導入にあたっては、このパソコン購入費をほぼ賄える補助金が出るが、これを全国の医療機関に導入するためには莫大な金額に上る。万一、導入が頓挫すれば、すべては無駄になってしまう。
マイナ保険証の推進を掲げたはずの政府だが、その一方で、岸田首相がマイナカードを持たない人について「資格証明書ではない制度を用意します」と発言するなど、足並みが揃わない様子も伺える。
2024年秋、日本の医療現場が混乱していないことを願う。