女優・有村架純の姉でタレントの有村藍里さん。顔面骨を6つに分割する「輪郭形成・骨切り術」(ルフォー+BSSO)の美容整形手術を受けたことを2019年に公表し、大きな反響を呼んだが、2月8日に配信された「集英社オンライン」のインタビュー記事内で有村さんは、術後の痛みや現在も残る手術の後遺症について告白。手術後1カ月は常に痛みを感じ、食事でモノを噛むことも禁止され、半年間は顔の腫れが引かず、現在も顔の半分の感覚が鈍いことなどを明かし、再びクローズアップされている。
有村さんは19年3月、その前年秋に美容整形手術を受けていたことをブログで明かし、「口元が気になって人前で素直に笑うことが怖くなっていました」「手術をするべきなのかずっと考えていました。嫌われたらどうしよう。変に思われたらどうしよう。わたしどうなるの? 大丈夫? これから先、どう生きていけばいいの?」などと手術に際し心の葛藤があったことをつづった。そんな有村さんに密着したドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)も同月に放送され、上顎骨や下歯茎の後方を切り離した上で、位置などをミリ単位で調節する非常に難易度の高い施術の内容が公開。手術後に自身の顔を見て涙を流し、前向きに生きていく気持ちになった様子を見せる有村さんの姿は多くの共感を呼んだ。
今回の「集英社オンライン」のインタビューで有村さんは、絶対安静の術後1カ月は「完成形がわからないので、すごく病んでいました」と吐露し、医師からは完治といえるまで5年はかかると告げられたと語っている。また、前述した現在も顔の感覚が鈍い状態については「これはもう治らないのですが、事前にリスクとして覚悟していたこと」と話しており、相当な覚悟で手術に挑んでいたことがうかがえる。
ちなみに有村さんの施術を担当した美容クリニックの公式YouTubeではビフォー・アフターの姿や施術金額が動画で公開されており、それによると総額は400万円に上るという。
手術を勧めないケースも
東京美容外科 輪郭形成 診療部長の山本崇弘氏は「日本では両顎手術(ルフォー+BSSO)の8割は口腔外科で保険診療によって行われ、より自分が望む顔に近づけたい場合に自由診療が選択されている」と指摘する。
山本氏は名古屋大学医学部を卒業し、東京大学医学部附属病院や帝京大学医学部附属病院などを経て2020年に現職に就いた。現在は自由診療を行っている。両顎手術は保険診療には限界があるという。
「保険診療の場合、実施できる術式の種類が限られるうえに、メタルやワイヤーの材質や色など使用できるリソースも限られてくる。保険適用となる顔の変形の範囲も限られている。さらに3Dプリンターを用いたマウスピース作成も保険適用されないため、保険診療ではマウスピースを手作りする医療機関もある。私の意見だが、3Dプリンターで作成したほうが精度は高い」
山本氏は両顎手術で豊富な実績を築いているが、患者は若い女性だけでなく、男性や中年の女性も多いという。
「口元の形状で悩んでいる気持ちは、どの年代でも変わらないと思う。例えば子育てが一段落して、ようやく自分の問題に向き合えるようになって、勇気をもって手術を受ける方もいる。モデルや芸能人など容姿を商品にしている方のなかには、周りに自分よりもきれいな人が多いと思い込み、手術を受ける方もいるのではないだろうか。これは普通の方にはわからない感覚だ」
どのようにリスクとベネフィットを比較して、手術を受けるべきかを判断すればよいのだろう。山本氏はこう助言する。
「顎の形に問題があっていじめに遭っている方なら、それを解決するために手術を受けたほうがよいケースもあるかもしれない。逆に幸せな生活を送っていて容姿に問題のない方が『今よりも少しきれいになりたい』という動機で手術を希望してきた場合は、受ける必要がないのではないかと話すこともある」
山本氏が手術を勧めないケースは主に2つある。ひとつは、骨格上、適応がない場合。例えば、唇が薄くなる、歯が見えにくくなる、鼻が広がる、頬がたるむといったリスクを踏まえて、CTやレントゲンの結果、患者がなりたい容姿に変えることが難しそうな場合は手術をしないほうがよい。
もうひとつは、精神的に手術に耐えられないと判断した場合。両顎手術はダウンタイムが長く、見た目が大きく変わることがあるため、患者のアイデンティティも変わりやすい。例えば、両顎手術で唇が薄くなったときに、患者様のリスク許容度が大きければ、他の修正治療で唇の形を整えようと前向きに考えるが、リスク許容度が小さくて「この唇では生きていけない。元の姿に戻してほしい」とネガティブになってしまう人は両顎手術に適していない。
術後に患者が遵守すべき事項
山本氏によると、両顎手術は「医療者と患者が一緒につくり上げていくもの」。そのために術前と術後に患者が遵守すべき事項を説明している。以下は、いずれも遵守しなければ成果にマイナス影響を及ぼしかねない事項である。
第一に、スプリント(ゴム製の歯型)作成後に歯の治療を行わない。スプリントを使ってかみ合わせの位置を決めるため、歯に詰め物や被せ物があったり、歯を削ったり矯正したりすると歯の形が変化して、正確な手術ができず、かみ合わせが崩れてしまうのだ。
第二に、歯のクリーニングを行い、歯石等を除去し口腔内環境を手術に向けて清潔に整えておく。歯石が多く付いていると口の中に細菌が充満し、創部やプレートの感染が起こりやすくなる。
第三に、問診時には何も薬を服用していなくても、例えば手術の2週間前に風邪をひいて薬を服用した場合は、「こういう薬を処方されたが、飲んでいいか?」と確認する。
第四に、手術の1週間前から食事や睡眠、過度な飲酒に留意して体調を整える。前日の飲酒や夜更かしは手術にも術後のダウンタイムにも影響する。
第五に、電子タバコを含めて喫煙は手術1カ月前、術後は最低1カ月、できれば3カ月間は控える。喫煙は血管収縮を起こし、傷の治りや骨の癒合を悪くするからだ。このぐらいのことなら誰でも遵守するのではないのか。しかし山本氏は説明する。「いえ、守らない方は結構いる」と。
山本氏は「リスクのある手術なので安易に受けようと思ってほしくないが、一方で過度に心配する必要はない。手術の必要な方が顎の形状を修正して幸せになってほしい」と呼びかける。
(文=Business Journal編集部、協力=山本崇弘/東京美容外科 輪郭形成 診療部長)