今やインターネットを使えば容易に日々のニュースを知ることができる時代ではあるものの、新聞を代表とする紙媒体を好む人も依然として多いだろう。筆者もそのひとりである。
しかし、フィリピンにおいて新聞が自宅に配達されるシステムはなく、たまにスターバックスやザ・コーヒービーン&ティーリーフといったカフェに出向き、常備されている4~5種類ほどの新聞を読み漁っていた。これらのなかに、BusinessWorldという立派な経済新聞もある。ちなみに、米国発のコーヒービーンは、日本ではあまり見かけないが中国、韓国、シンガポールなどにおいても広く展開している。
こうした話を学生にしたところ、「全店ではないが、ジョリビー(フィリピンの大手ハンバーガーショップ)やマクドナルドでは、店員に頼めば無料で新聞をもらえる」と教えてもらった。それ以後、毎朝、ハンバーガーを食べながら、ゆっくりと新聞を読むことが習慣化している。200円程度のセット価格にもかかわらず50円の新聞が無料で提供されるとは、なんとも気前のよいサービスである。もっとも、実際に新聞をもらっている客をほかに見たことはなく、早晩、このようなサービスはなくなってしまうことだろう。
フィリピンの自動車事情
そんな新聞の広告において、圧倒的な存在感を示しているのが自動車である。1人当たりGDP34万円、一般の店員の月給が1.5万円程度のフィリピンにおいて、少なくとも150万円は必要となる新車の購入は、庶民にとって高嶺の花となる。
しかしながら、フィリピンにおいて新聞の購読層は主として中流階級以上となるため、自動車の広告が有効に機能しているのだろう。
また、日本以上に人気を集めるショッピングセンターでの自動車の展示会も、頻繁に行われている。先日、あまり見かけない「TIGGO」(中国CHERY/奇瑞汽車)というSUV(スポーツ用多目的車)が展示されていたので近寄っていくと、セールス・スタッフが丁寧に説明してくれた。CHERYは、中国では自社ブランドに加え、合弁事業によりジャガーやランドローバーを生産・販売しているとのことだった。
外装、ドアの開閉、内装などは日本車と遜色がなく、中国の自動車もここまでのレベルになっているのかと感じた。さらに、驚くべきは150万円という価格である。同型のトヨタ自動車の「ラッシュ」より3割程度、安い価格設定となっている。もちろん、故障率などにおいては依然として大きな差はあると思われるが、ここまでの価格差となると、心が大きく動く消費者も少なくはないだろう。実際、展示会場には多くの人が殺到していた。
日本の競争優位性
これまでの一般的な産業の発展過程は、繊維などの軽工業に始まり鉄鋼、電機、自動車へと続く。鉄鋼、電機に関しては、すでに韓国や中国メーカーが強い影響力を誇示している。自動車こそ、いまだ日本が高い競争力を保持しているが、今回、中国車に実際に触れ、「日本車の強さは、いつまで続くのか?」「あっという間に追い越されてしまうのではないか?」との危機感を抱いた。
とりわけ、電気自動車の進展に伴い、基幹部品となるモーターやバッテリーがどの自動車メーカーも購入可能な状態となれば、PCのようにもはやメーカーによる性能の差はなくなってしまうことだろう。
こうした状況を見越して、トヨタなどは自動車の研究開発に加え、交通全体を管理する運行システムなどに注力しているように思われる。このような競争では、情報管理に長けた米グーグルなどがコンペティタ(競合)となるが、いかにして日本の自動車メーカーは生き残っていくのか。興味深いポイントである。
(文=大崎孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)
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