男性誌『LEON』、揺るぎない「ユルさ」ゴリ押しも、最後は財力を猛プッシュですか…
今回、注目してみたいのは、こちらの企画でございます。
『LEON』(主婦と生活社/9月号)
“ゆるカジ”の大代表はこんなスタイルです
夏のオヤジは「脱力アメリカン」か「脱力イタリアン」
“ちょい不良(ワル)オヤジ”でお馴染みのLEON。どれだけ暑くても、素敵な婦女子(同誌では「ニキータ」と呼称)にどうやってモテるか、というスタンスがまったくブレません。すべてのモノゴトを股間で判断していくようなその姿勢は、季節と関係ない様子。いや、暑いからこそ、さらに加速しているような雰囲気です。愛すべきバーバリアンっぷりに、背筋に冷たいものがダラダラ流れてまいります。
この連載でもたびたび話題にしているように、昨今のファッションを語る上で「ゆるさ」は不可欠の視点。同特集でも、イケてるオヤジの「ゆるファッション」を胸ヤケしそうになるくらい紹介してくれます。
ただ、ここでちょっとした違和感。こういう対比型のタイトルの場合、たとえば「やんちゃ」と「キレイめ」など、カラーやスタンスの異なるワードを持ってくるのが定石でしょう。
しかしこの企画は「脱力アメリカン」か「脱力イタリアン」。どっちに転んでも「脱力」かよオイッ! と突っ込まずにはいられない。まあ、アメリカンorイタリアン、という対比になっていると言われてしまえばそれまでですが、タイトルからして「そんな、細かいことはどうでもいいんだよ!」と押しの強い語気で言いくるめられているような気分になってくるのです。もっとも、アメリカンとイタリアンにおける「脱力」の違いを端的に理解しているであろう賢明なLEON読者には、グイッと刺さるタイトルなのでございましょう。
●タイトルの「脱力」が真に意味するところとは!?
さて、そんな脱力プッシュ甚だしい特集で八面六臂の活躍をするモデルは、ちょい不良オヤジ界のオシャレ番長、毎度お馴染みのパンツェッタ・ジローラモ氏。どのページを開いても、ジロー兄さんがハシャギまわり、ブロンド美女としっぽりなのです。
内容は、特集タイトルに即したファッションアイテムを、カタログ的に見せていくもので、オシャンティなTシャツやら短パンやらスニーカーやらをいろいろと提案してくれます。なるほど、これがLEONの考えるヌケ感というワケですね。ジロー兄さんのように着こなすのは難しそうですが、参考になる部分もございました。
そして、揺るぎない「ゆるさ」に貫かれた特集の最後を飾るのは『大人だからこそ、豊かなライフスタイルを感じさせないとね “ゆるカジ”だからこそ時計とクルマが肝要でした』というタイトルのコラムでございます。リードには『そこで若者との差を一気につけてしまいましょうぞ』との一文……。
なになに、さんざんゆるさだの洒脱さだのをお調子者風にゴリ押ししておいて、最後は結局、高価な時計やクルマをちらつかせて、財力で勝負ですか!? さすが、ちょい不良オヤジらしい、大人げないトドメの刺し方でございますね。そして、ジロー兄さんがブロンド美女とともに収まるクルマは、メルセデスのオープンカーSLS 55 AMGです。写真に添えられた見出し『オヤジの余裕がみなぎる高級車』の容赦ないストレートな表現にも脱力しまくりです。
ん? もしやこの特集の「脱力」は、最終的に読者までも脱力させる、という意味すら含んでいたのでしょうか。まったく、油断も隙もありません“ぞ”。
(文=漆原直行)
【プロフィール】
漆原直行(うるしばら・なおゆき)
1972年、東京都生まれ。編集者、記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中からライター業を始め、トレンド誌や若手サラリーマン向け週刊誌などで取材・執筆活動を展開。これまでにビジネス誌やIT 誌、サッカー誌の編集部、ウェブ制作会社などを渡り歩きながら、さまざまな媒体の企画・編集・取材・執筆に携わる。ビジネスからサブカルまで“幅だけは広い”関心領域を武器に、現在はフリーランスの立場で雑誌やウェブ媒体の制作に従事。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』『ネットじゃできない情報収集術』などがある。