今から約200年前、アメリカ南部では奴隷制度が存在し、人が人を売買し、買われた黒人たちは、鞭で打たれ、過酷な労働に従事させられていた。
当時、奴隷制度は合法であり、奴隷となっていた人は主人の財産とされていた。また、黒人女性の奴隷は、白人の主人からの性的虐待を受け、それによって主人が罰せられることもなく、彼女たちは受け入れるしかなかった。
主人が奴隷女性との間に子どもをもうけることも当たり前に行われ、主人の妻の嫉妬と怒りが奴隷女性に向けられ、虐待されてしまう事実もあった。
19世紀アメリカ、ノースカロライナ州に幼くして両親と死に別れ、12歳で35歳年上の白人医師の家の奴隷となったリンダという黒人女性がいた。その半生をつづった一冊の本『ある奴隷少女に起こった出来事』(邦訳版は新潮社より刊行)には、当時の奴隷制度の残酷な実態とそれに抗い続け、虐待、妊娠、逃亡、潜伏といった彼女の波乱に満ちた人生が克明に記され、全米で大反響を呼んだ。
この本は、知的な文体でつづられ、その内容が衝撃的すぎることから、どこかの白人作家が偽名で書いた小説であろうとしばらくの間、誤認されていた。その奴隷少女の手記が、執筆から120年以上も後、実話だったと証明されることになった。
その裏付け調査をしたのが、マンハッタンにあるペース大学の歴史学者だったジーン・ファガン・イェリン氏だ。イェリン氏はその小説に出てくる自称や人物のほぼ全部が実在していたことを立証し、1988年、イェリンはその研究論文を発表。それを1冊にまとめた。これにより、フィクションとされていた著者不明の小説が、ハリエット・A・ジェイコブズという女性の自伝であると、学術的に証明されたのだ。
そんな一冊をコミカライズしたのが、『ある奴隷少女に起こった出来事1』(あらいまりこ著、ハリエット・A・ジェイコブズ原作著、堀越ゆき原作訳、双葉社刊)だ。
マンガで読めるので、幅広い世代の方が手に取りやすく、当時の奴隷少女の過酷な実態を読むことができるコミックだ。人種差別問題は今でも問題となっている。そのルーツは、現代人も知っておくべき事実のはずだ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。