経済界の単なる申し合わせにすぎないが、2016年度の大学卒業予定者から採用活動の時期が繰り下げになり、採用広報活動は15年3月から、選考時期(=正式な「内定」を出していい時期)が同年8月からとなる。とはいえ、現在すでに大学3年生に対する企業側からのアプローチは行われており、この申し合わせは有名無実化しているだけでなく、むしろ採用活動の透明性を低下させる方向に働く可能性がある。経済合理的のないことを無理やりルール化したことの典型的な失敗例になりそうだ。
少し遡るが、14年4月7日付日本経済新聞に『「新卒一括」採用は本当に効率的か』と題する社説が掲載されたことがある。媒体の性質上、主に企業側にとっての損得を論じているが、採用時期の繰り下がりで採用活動が一時に集中し、企業の競合が強まることを通じて企業が十分納得のいく選考活動ができなくなることを懸念しており、採用を新卒の一時期に集中させすぎていることの弊害を論じている。
「経済が右肩上がりで伸び、毎年、大量採用していた時期は一括採用方式が効率的だったが、『厳選採用』時代の今はその利点が薄れている」
「卒業論文、卒業研究で忙しく就職活動を始めるのが遅れた学生や、卒業後に留学した人を対象にした採用にも積極的に取り組むべきだ」(ともに同社説より)
だが、率直に現実を見るのであれば、企業側としてより切実に追求すべきは、「遅れて来た就活生」への門戸拡張よりも、これまでよりも早い時期の優秀者確保だろうし、中途採用の充実ではないだろうか。
●いち早く優秀な候補者を確保する方策
大学人にとっては残念なことだが、企業が欲しいのは優秀な素材であって、大学で身につけた知識ではない。筆者は大学生や若い社会人と接する機会が割合多いが、企業から見て「優秀な人」は、大学に入った段階ですでに優秀であり、人材の優劣の差は就職後の訓練で埋まるレベルをはるかに超えていることが多い。
ここでいう「優秀」とは、それが学力である場合もあろうが、対人コミュニケーション能力だったり、体力だったり、商才だったりと多様だ。いずれの能力に関しても、個人差はあり、最優秀な人材の価値は非常に高い。企業が真に有能な人材を獲得しようとするなら、大学3年時、あるいはそれよりも前の大学1、2年時にも学生にアプローチして、確保を試みるべきだろう。契約に工夫が必要だが、例えば大学の学費と海外留学の費用を企業側が負担する一方で、卒業後に一定期間、一定条件でその企業に勤めるといった約束を学生と交わすことができれば、いち早く優秀な候補者を確保できる。
もちろん、企業側は解約に対して経済的に適正なペナルティーを設定し、学生側はこれを払えば後から進路を変えることができるような契約がフェアだ。学生に「出資」して、その学生が主導し、企業が一定の株式を持つスタート・アップ(最近は「ベンチャー」とは呼ばないらしい)を立ち上げるような試みもあっていいだろう。