どんな人であってもお金の悩みから逃れるのは難しい。
今お金に困っていなくても、いつか困るかもしれないし、老後のための資金だって必要だ。今の収入が増えるとは限らないし、いままでどおり働き続けられるかもわからない。
悲観的なことを考えだしたらきりがないが、何があっても持ちこたえられるように蓄えを作っておくに越したことはない。そして蓄えは収入の問題でもあるが、生活スタイルと考え方の問題でもある。
「この会社にいれば安泰」が崩れた瞬間
『三千円の使いかた』(原田ひ香著、中央公論新社刊)は、物語を通してお金の知識と貯蓄術を教えてくれる短編集だ。
表題作では、中堅IT企業に勤めながら都内で一人暮らしをする二十代の美帆が、ふとしたことから当たり前のこととして考えていた自分の未来に不安を感じるようになる。親しかった会社の先輩社員・街絵が、ちょっとした病気をきっかけに簡単にリストラされてしまったのだ。
その先輩は40代で独身。実家住まいだったことから年長の男性社員から好奇の目で見られ、からかいの的になっていた。病気をして査定が下がったこと、実家が持ち家で比較的裕福だったこと。役職はなかったが長く勤めていて給料が高かったことなどがリストラの理由だった。
このあたりは誰にでも当てはまる部分があったり、いずれ当てはまりそうで身につまされるのだが、一方で美帆の会社の年長者たちはその自覚がなく、あろうことかリストラされたのは自業自得であるかのようにおもしろおかしく街絵を話のネタに。うんざりした美帆は彼氏の大樹に相談するが、大樹の態度も煮え切らないどころか、街絵をからかった人たちに理解を示す始末である。正月に帰省した実家も、いごこちが悪いものになっていた。
安定した仕事、彼氏、実家。
これまで自分がよりどころにしていたものが結局のところ自分の未来を保証してくれるものではないことに気づき、「これからどうやって生きるか」という問いに向き合うこととなった美帆がまっさきに考えたのが「お金」だった。憧れの「東京の南側」・祐天寺で、家賃9万8000円のマンションに暮らし、そこそこに外食もし、特に節約してこなかった美帆には、その時点で貯金が30万円ほどしかなかった。
そんな彼女に知恵を授けたのが、証券会社に勤めていたことがある姉の真帆だった。真帆は結婚していて小さな娘がいるため働いていない。夫の収入も美帆の方がいいくらいだが、年間に100万円ほどは貯金ができているという。驚いた美帆がどうやってそんなに貯金をしているのか尋ねると、真帆は自分の節約術や貯蓄術を明かしていく…。
◇
貯蓄、節約は日々の取り組みと仕組み作りがすべて。
固定費の削減、毎日少しずつの我慢の積み重ね、ポイントの活用、そして資産運用。まさに「塵も積もれば…」の世界なのだが、どの作品もそこについて効果的な方法を教えてくれるのがありがたい。
今何を始めるか、で将来のお金事情は変わってくる。お金に困らない未来を目指すなら、本書から得られるものは多いはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。