新型コロナウイルス感染拡大を機に行われた、日本生産性本部の「新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識に及ぼす影響を調査」(2020年5月)の中で、興味深い結果が読み取れた。
コロナ禍のなかで今後の収入への「不安を感じる」とする回答を世代別に見ると、もっとも高いのが20代(68.5%)、次いで40代と30代(67%前後)、そして50代(62.8%)はやや低いものの、すべて6割以上で大きな差はみられなかった。
将来不安の中で学ぶ20代、学ばない50代
一方、新型コロナウイルスの感染流行以降に、新たな自己啓発を「始めた」と「始めたいと思っている」の回答合計を世代別に見ると、20代が54.2%なのに対し50代は31.2%と、差が目立った。つまり、将来不安は変わらないのに、「学ぶ20代、学ばない50代」が浮き彫りになっている。
この自己啓発については、目的を尋ねるとともに平成30年の能力開発調査との比較が示されている。それによると、同能力開発調査で「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」(85.8%)が断然首位だったのに対し、今回は「将来の仕事やキャリアアップに備えて」(46.3%)が首位となったのが象徴的だ。
若い世代ほど、将来のキャリアを見据えた学びの必要性を強く意識するのは当然だ。一方で、自己啓発意識が低く、自らが学ぶ価値を感じていない上司が、部下の成長とキャリアアップを支援できるだろうか。優秀な若手部下は、この点に敏感である。
すなわち、部下に“好かれる”重要な条件のひとつは、上司が組織と自らの成長に向けた「学び」を率先垂範することだ。
DX時代に求められるリスキリング
いま、ビジネスパーソンの間では、「リスキリング」がトレンドとなっている。「新しい技能を身につける(身につけさせる)」「再学習(再教育)を行う」との意味だが、「学び直し」と言い換えてもよいだろう。しかし、あらためてクローズアップされた背景をとらえるには、次の定義が象徴的だ。
「リスキリングとは、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること。近年では、特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている」(経済産業省「第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会」<2021年2月26日>資料『リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流』リクルートワークス研究所)
今後は、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」によるビジネスと企業の変革が必至だ。これに対応するには、中堅・ベテラン社員も含め新たなスキルの修得が必須であり、そのための学び直しが不可欠なのだ。現在のリスキリングは、こうした文脈で論じられている。
確かに、経営や人事の観点からは、第4次産業革命ともいわれる大転換の時代への対応として必然だろう。しかし人によっては、「DXスキルの修得に挑むべき」と迫られれば気後れするし、脅迫観念に追い立てられた学び直しは苦痛だろう。
辛い勉強と楽しい学びの違い
私は、前職で雑誌「ケイコとマナブ」「仕事の教室」(いずれもリクルート)などの編集長を務めていた。その頃に掲げていたコンセプトは、「脱・勉強宣言」だった。
勉強は、「勉めることを強いる」と書く。しかし、苦痛に耐えながら勉め、励むような学びはつらいだけだ。そこで、自らの楽しみや喜び、豊かにするための学びとして「脱・勉強」を提唱した。
私は、そもそも学ぶことは楽しいものだと信じている。そして、楽しいかつらいかの違いは、主体性の有無だ。人は、自分が興味を持ち、心から知りたい、学びたい、身につけたいと思うことなら、他人から言われなくても夢中で学ぶ。それは遊びや趣味のようにワクワクして楽しいものだ。
私が営む会社では、働く個人が自ら希望して自主的に参加するセミナーや講座も開いている。自ら関心を持ち、学びと交流の場を求めて集う参加者は、積極的で楽しそうだ。ところが、「修得しないと置いていかれる」「試験に合格しないと昇格できない」などの脅迫観念や恐怖心からの学び、また命令されて参加する受け身の研修などは、つらい勉強になりやすい。
主体性の有無が、つらさと楽しさの分水嶺となるのだ。自らの内面から湧き出す希望やワクワクする関心の延長線上で学んでほしい
学びで人生は変わる
学びとは、新しい世界を知ることで視野が広がり思索が深まることで、未知の自分を知っていく営みでもある。
そこで、学びを通して社外の世界に一歩出てみることをお勧めしたい。私たちは、自分の潜在意識や持ち味に容易に気づけない。同質性の高い“会社村”の一員として働くだけでは、なおさらだ。
まずは、お試しでよいので、社外で学んでみよう。「違うな」「自分には合わないな」と感じたら、やめて別のことにトライすればいい。手応えを感じたら、さらに深めていけばいい。すると、今まで見えなかったやりたいことに出合える場合もある。学びで人生が変わるのだ。
「少にして学べば、即ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、即ち老いて衰えず。老いて学べば、即ち死して朽ちず」
これは、吉田松陰や西郷隆盛にも影響を与えた江戸時代の思想家・佐藤一斎の至言だ(『言志晩録』第六〇条)。決して、学び始めることに遅い年齢などない。
学ぶための「8つのステップ」
やりたい仕事、なりたい自分に近づくために、次の8つのステップを紹介したい。
(1)今後の仕事や趣味の充実に向けて、少しでも気になる学びのジャンルの目星を付ける
(2)そのジャンルの基本情報や実態がわかる本を10冊読む
(3)関連する講演会やセミナーに参加する
(4)社会人大学院やスクールに通い、参加型の学びでスキルアップ。共に学ぶ仲間づくりも
(5)属人的な自分の経験値を、資格取得や検定試験で客観評価に変える。
(6)関心ある仕事や活動の内情を学ぶには、弟子入りバイトやボランティアが一番
(7)勉強会は参加するのではなく、主宰者になって最新情報とご縁を広げる
(8)専門以外の教養を幅広く学び続け、専門性を相対化させる
いかにして固定観念から脱し、自らの成長に向けたワクワクする「学び」に出合うか。そのヒントを得たい方は、ぜひ拙著『50歳からの人生が変わる 痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)を参照いただきたい。
(文=前川孝雄/株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師)
『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』 本書では、著者自身の経験と豊富な事例をもとに、 第二の職業人生で本当にやりたい仕事を、「学び」を通じて見つける方法を指南する。 やりたい仕事が見えてくる「50歳からの学び戦略MAP」や 自分探しの迷路から抜け出せる「自己分析ワークシート」も必見