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真面目な上司ほど嫌われる?成果を上げられない管理職が陥る“5つの落とし穴”

文=前川孝雄/株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師
真面目な上司ほど嫌われる?成果を上げられない管理職が陥る5つの落とし穴の画像1
部下の育成が下手な管理職に共通する特徴とは?(「Getty Images」より)

 日本企業を取りまく環境の激変に伴い、上司と部下の関係、そしてマネジメントのあり方にも変革が求められている。

 終身雇用が崩れ、若手社員ほど会社への忠誠心は弱くなっている。「上司の指示には素直に従うのが当然」という意識は、過去のものといっていい。長期的な雇用が保証されず、「我慢していれば、いつかはそれなりの処遇が受けられる」との期待すら持てないのだから。

 その一方で多くの管理職は、いわゆる「プレイングマネジャー」だ。自らの業務に忙殺されつつ、部下の指導・育成の役割が期待される。そして、担当チームの業績向上へのプレッシャーがかかるなか、長時間労働の是正や休暇取得の促進など「働き方改革」の実行までを担う。

コロナ禍で露呈した「マネジメントのジレンマ」

 そこにコロナ禍による慣れないテレワークが加わり、姿の見えづらい環境下での部下のマネジメントや評価が求められている。時間管理を前提としたこれまでの労働法制に縛られながら、部下の勤怠管理と仕事での成果に迫られているわけだ。

 40代半ば以上の管理職にとって、若手時代の頃に経験してきた日本の管理職のマネジメント手法では、とても対応できないことは明白だ。

 ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、著書『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社)のなかで、大企業が新興企業に遅れをとる理由について、次のように分析している。

「大企業には優れた自社製品があるので、その改良にとらわれて持続的イノベーションに終始する。その結果、新興企業がもたらす破壊的なイノベーションの価値を見逃してしまうというものだ。

 私は、今の日本企業社会では『マネジメントのジレンマ』が起きていると感じている。過去の成功体験がありマネジメントの常識が根付いている人は、時代や環境が変化しても、その延長線上で行動しがちで、うまく機能していないことに気づきにくい」

真面目な人ほど陥りやすい「クイック・ウィン・パラドックス」

 若い頃から大きな実績をあげてきた真面目な人がマネジャーになると、自分が優秀であるがゆえにマネジメントに悩むという現象も起きがちだ。経営学者のリンダ・ヒルは『昇進者の心得 新任マネジャーの将来を左右する重要課題』(ダイヤモンド社)で、成果を上げられない管理職が陥る“5つの落とし穴”を挙げている。

(1)隘路(あいろ)に入り込む:狭い路地に迷い込んだように周囲が見えなくなり、自分ですべてを解決しようとする

(2)批判を否定的に受け止める:部下の異なる意見を自分への批判と受け止め、聞き入れられなくなる

(3)威圧的である:管理職の自分に権限があるからと、一方的に命令や叱責を行う

(4)拙速に結論を出す:部下の意見や状況を顧みず、早く解決しようと決めつけて判断する

(5)マイクロ・マネジメントに走る:部下を操り人形のように微に入り細に入り指示し、動かそうとする

 優秀なプレイヤーであった人が管理職に昇格すると、高い職責意識から、組織としての成果を高めようとする。部下に指示するより自分がやったほうが早いと考えがちで、多忙さが増して、がんじがらめになって隘路に入り込んでいく。

 自分のやり方に自信があるので、異なる意見にはネガティブな反応を示しがちだ。そして、部下が自分の思い通りに動かないことに悩み、「上司の言うことを聞け!」と強権的になったり、先回りして「ああしろ」「こうしろ」と指示をしたり、重箱の隅をつつくように部下のすべてを管理しようとするのだ。

 実績をあげてきた方法に基づく指示だから、あながち見当外れではないかもしれないが、部下は「すべてを管理されている」「仕事をやらされている」という感覚を強く持つようになる。

 ここで押さえておきたいのは、人は管理されるほどやる気を失う傾向があるということだ。個人のモチベーションについて研究している同志社大学の太田肇教授は、“管理とモチベーションアップは相性が悪い”と指摘している。

 人間は自分の意見や持ち味、個性などを認められ、それを発揮し、仕事を任せてもらうことでモチベーションが高まる。上司が管理しようという圧力をかけることは、これに逆行してしまうのだ。もちろん、やる気をなくした部下を抱えていては、チームが成果を上げられるはずはない。

 優秀なプレイヤーがマネジャーになり、早く成果を上げようと頑張ると、「5つの落とし穴」にはまることが少なくない。すると、頑張るほどに成果が上がらなくなってしまう。この逆説は、「クイック・ウィン・パラドックス」と呼ばれる。

 固定観念にとらわれた上司は、いくら優秀で真面目であっても、部下からは嫌われ敬遠されてしまうのだ。

こんな上司が嫌われる

 さらに、部下に嫌われる10の固定観念を示しておく。昨今では、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とも指摘される心理概念と同義だ。

 経験と実績が豊富で自信にあふれた上司ほど、とらわれやすく捨て去りにくいものだ。しかし、変化する環境下では固定観念から脱しなければ管理職としてはもちろん、自分自身の今後の職業人生においても、幸せにはなれないのではないだろうか。

 ぜひ、自分自身へのチェックリストとして確認してほしい。

【「固定観念」チェックリスト】

□「上司は部下より偉い」という上下関係意識(上司は部下を支援・育成する「役割」と認識すべし)

□肩書きへの執着、依存心(「大企業の管理職だから」「部長や課長だから」は個人の価値にあらず)

□損得勘定で考えてしまう癖(相手も損得勘定でしか見てくれず、心ある人はついてこない)

□部下を監視する目(監視や管理は部下のやる気を失わせる)

□プレイヤー業務を部下に任せない(部下に仕事を任せぬ限り、マネジメントの時間は生まれない)

□部下へのバカげたライバル意識(優秀な部下を育てることこそ、上司の評価を高める)

□つけ焼き刃のマネジメントテクニック(借り物の手法を使うのでなく、人心と物事の本質を学べ)

□「割り切り」や「あきらめ」という名の「決めつけ」(相手の成長可能性を信じてこそ、人は育つ)

□経営からの業績プレッシャー(何のための業績目標か、その先にある仕事の目的を見極める)

□大黒柱&リーダーは男であるべきという「昭和的価値観」(ダイバーシティ重視は今や世界標準)

 いかにして固定観念から脱し、自らの成長に向けたワクワクする「学び」に出合うか。そのヒントを得たい方は、ぜひ拙著『50歳からの人生が変わる 痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)を参照いただきたい。

(文=前川孝雄/株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師)

前川孝雄/株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師

前川孝雄/株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師

 人材育成の専門家集団FeelWorksグループ創業者であり、人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、400社以上を支援している。
 独自開発した「上司力研修」「50代からの働き方研修」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などを提供。多様な働く人たちの本音に通じ、四半世紀にわたる現場研究に基づいた研修プログラムで、現場を預かるリーダーたちから圧倒的支持を集めている。
 2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人企業研究会 研究協力委員サポーター、一般社団法人ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。連載やコメンテーター、講演活動も多数。
 著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『上司の9割は部下の成長に無関心』(PHP研究所)、『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(ダイヤモンド社)、『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)など。最新刊は『50歳からの人生が変わる 痛快!「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。
株式会社FeelWorks公式サイト
出版事業サイト
プロフィール撮影:安岡嘉

Twitter:@feelworks

『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』 本書では、著者自身の経験と豊富な事例をもとに、 第二の職業人生で本当にやりたい仕事を、「学び」を通じて見つける方法を指南する。 やりたい仕事が見えてくる「50歳からの学び戦略MAP」や 自分探しの迷路から抜け出せる「自己分析ワークシート」も必見 amazon_associate_logo.jpg

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