2020年に急速に広まった働き方改革といえば、オフィス以外で業務をこなす“テレワーク”だろう。新型コロナの収束は遠く、今後もテレワークを継続していく企業も少なくない。同時に、オンライン上で行う“リモート会議”も定着しつつある。
その一方で、リモート会議に苦手意識を持っている読者もいるはず。そこで、リモート会議にまつわるトラブルや適切なリアクションについて、日本サービスマナー協会認定マナー講師の清水美奈子氏に話を聞いた。
オンライン会議は5分前の入室がマナー?
「4月頃から、社内会議や外部との会議、研修、セミナーなど、複数人が一部屋に集まる機会がほとんどなくなりました。それに伴い、リモート会議の入室のタイミングや服装、女性の場合はメイクの程度などの悩みを耳にすることが増えましたね」(清水氏)
中でも、オンライン上の“会議室”への入室は、タイミングを間違えるとトラブルにつながるという。
「開始時間ギリギリのタイミングやオンタイム入室をする人が多いと、主催者が『入室許可』や音声確認、接続不安定の方への対応などに時間を要すこともあるため、開始が遅れてしまいます。特に大人数の会議やセミナーは、所要時間が削られて内容の質も下がります。遅くとも5分前の入室、主催者が入室時間を設けている場合は、指定時間内に入るのがマナーですね」(同)
リアルな会議では5分前行動ができるのに、リモートでは気の緩みからかオンタイム入室をする人が多い、と清水氏。このようなリモート特有の“気の緩み”は、会議中も見られるという。
「会議中にずっとペンを回していたり、無意識のうちに頬杖をついていたり……自宅などから参加して気が緩むせいか、リアルで上司やお客様と会うときには絶対にしないような行動を取る人がとても多いですね。リアルよりも一人ひとりの顔がよく見えるリモート会議や新人研修では、やる気がないと誤解され、印象が悪くなる可能性があります」(同)
「リモートは気が抜ける」という声もあるが、リモート会議こそ「見られている」という意識を持ち、気合いを入れて臨む必要があるのだ。また、リモート特有の“伝わりにくさ”もトラブルにつながる、と清水氏は話す。
「リアルな場では、表情以外にも相手と意思疎通をする方法がたくさんあるんです。研修中は、講師が室内を歩いて受講者のメモを見て回れば、それぞれの理解度が把握できます。対面の会議でも、一生懸命メモを取っているのは一目でわかります。でも、手元が見えないリモート会議では、下を向いているとスマホを触っているなど他の作業をしているのでは? と誤解を生む可能性があります。内容の区切りの際は、一旦顔を画面に向けるなどのリアクションも必要。視覚だけで得られる情報の少なさを痛感しています」(同)
リモートリアクションの極意とは
なかなか真剣さが伝わらないリモート会議では「意識的にリアクションを取ると良い」と、清水氏。
「リモート会議中の“うなずき”は、リアルな会議の2倍くらいうなずくことを意識すると、話を聞いていることが相手に伝わります。一人ひとりの理解度が重要な研修では、『普段の3倍うなずいてください』と話しています。どちらも、発言者の発表が一区切りしたタイミングで大きくうなずけば、話を聞いていた、理解されていることがわかるので相手も安心します」(同)
自分が発言者の場合も、リアル会議の2倍程度の身振り手振りを入れると、より伝わりやすくなるという。
「プレゼンや会議中の“拍手”にも、リモートならではのコツがあります。複数人が参加する会議では、雑音が入らないように発言者以外はミュートにするのが基本マナーになっていますが、それでは拍手の音が聞こえません。そのため、ディスプレイに映る高さまで手を上げて拍手しましょう。または、反応ボタンを利用しても良いでしょう」(同)
会議中は口角を上げた“ほほ笑み”スタイルを貫くと好印象だ。無愛想なままだと、発言者は不安を感じてしまうという。
「カメラの位置にも注意してください。顔よりも下にパソコンのモニターやカメラを置いてしまうと、自分の顔が下から映る角度になります。他の人にとっては見下されているようで、たとえ好意的な発言をしても威圧的な印象を与えてしまいます。ウェブカメラやパソコンを適当な高さの台に載せて、顔とカメラが水平になるように工夫しましょう」(同)
会議に参加する前に、自分のカメラ映りを確認しておくとスムーズだ。その際、画面に映る部屋の状態もぜひチェックしてほしい。
「ある企業の会議に参加したとき、発言者の背景が生活感にあふれすぎていて、なかなか内容に集中できませんでした。会議が始まる前に、干したままの洗濯物やグチャグチャのベッドが映らない場所を確保すると安心です」(同)
最近では、リモート会議に使えるバーチャル背景や、背景を隠すパーテーションも登場している。部屋を片付けるのが面倒な人は、リモートアイテムの活用も検討しよう。そして、「会議終了後の退出のタイミングに戸惑う人も多い」と清水氏。
「退出の順番にこだわる必要はないと伝えています。会議が終わり次第、一言あいさつをして退出ボタンを押すだけでOK。ただ、退出ボタンを探す表情が怖い人もいるので、ここでもほほ笑みをキープし最後まで好印象を保ちましょう。会議の終わりが近づいた頃にカーソルを退出ボタンに合わせておくと、終わったらスムーズに出られます」(同)
「リアルと同じ」でトラブルを回避
発展途上のリモート会議はマナーの線引きが難しく、“リモート会議マナー”を扱ったネット記事が炎上の憂き目に遭っている。何かと話題のリモートマナーについて、清水氏は「リアルと同じと考えれば難しくない」と話す。
「リモート会議のトラブルは、リアルではしない行動を取ったときに起きます。たとえば、リアルの会議やセミナーの参加中に何も言わずに離席する人はいませんが、リモート会議では突然いなくなる人が少なくないです。リアルのときはどうしていたかを考えて行動するのがコツですね。離席の際は、チャットを使って『○○のため、席を5分程度離れます』と書き込めば、主催者もフォローがしやすいと思います」(同)
服装も通常の会議をイメージすれば迷う必要はなく、上下オフィスカジュアルでまとめるのが無難だろう。カメラに映る上半身をスーツ、下半身は短パンで会議に出て急な来客で立ち上がり短パン姿が映ってしまった、なんてハプニングを防ぐことができる。
「雰囲気がいい場所で新しいアイデアが生まれるのは、リアルな会議と同じです。リモート会議でも、一人ひとりがマナーを守り、相手に誠意や意志が伝わるリアクションをすることができれば、会議が活性化して有意義な時間になります。特に今後はリモートで商談や営業をするケースも増えてくるので、取引先への印象を良くするためにも、リモートでのリアクションに慣れておくメリットは大きいでしょう」(同)
リモートリアクションを制する者がビジネスを制す……そんな時代が、すぐそこまで来ているのかもしれない。
(文=谷口京子/清談社)
●清水美奈子(しみず・みなこ)
全日本空輸株式会社にて、客室乗務員として9年間勤務し、国内線・国際線のチーフパーサーとして乗務。新入社員教育や実機のインストラクターなどの人材育成や組織改革のさまざまなプロジェクトを担う。退職後は、日本サービスマナー協会認定マナー講師として、ビジネスマナー、電話対応、接遇マナーなど各種研修を担当する。