少し前にインターネット上で国家資格の「宅地建物取引士(以下、宅建士)」の有利性に関する投稿が話題となっていた。引きこもりだったため職歴がない30歳の人物が宅建士を取得して仕事を探した結果として、「引く手数多だわ経験ないと無理とか思ってたがそんなことなかった」「世間を勝手にハードモードだと思いこんでた」などと投稿。これに対し多くの意見が寄せられたのだ。
30代で職歴がない場合、あまりいい就職先が見つからず、賃金も安い環境下で働くことになりそうだというイメージがあるかもしれない。そこで少しでも労働環境のいいところに就職しようと、国家資格を受験する人も多いだろう。国家資格のなかでも比較的ポピュラーな宅建士は、年間約20万人から25万人が受験しているという。
では、はたして本当に宅建士の資格を取れば、30代で職歴がなくても、簡単に就職することができるのだろうか。また宅建士以外にも取っておくと「就活で強い資格」はあるのか。今回は資格試験予備校で20年以上講師を務めるナルミナスキャリア代表の並木秀陸氏に聞いた。
宅建士が活躍の場は不動産業界だけではない
宅建士の年収は、大企業の場合は600万円程度、中小企業の場合は500万円前後と言われているが、そもそも宅建士とはどのような資格なのだろうか。
「不動産業のうちのひとつに宅建業というものがあります。宅建業は、主に建物の売買や交換、貸借の仲介を行います。商品となる建物や宅地について、不動産業において、登記や契約解除方法など重要事項の法律的な説明を、購入者や借用者に行うのが宅建士になります。また宅建業を行うにあたって、宅建業務に従事する従業員数に応じて、5名につき1名以上の割合で宅建士を置かなければいけないという法律での決まりがあるため、宅建士資格を持った社員は建物を扱うどの企業においても需要があるのです」(並木氏)
宅建士資格を活かした就職先はおのずと不動産業界が多くなるように思えるが、並木氏によると「不動産業界以外でも宅地と建物を扱う業界や企業というのは実は豊富にある」とのこと。
「例えば、飲食店を出店するとなったら、建物や宅地の知識が必要です。大手の会社が出資して飲食店やアパレル店舗などの出店を行うパターンがありますが、そうした会社の店舗開発部門でももちろん宅建士が必要になります。あとは、銀行や信用金庫といった金融業界でも宅建士が必要な場面があります。住宅ローンの融資を行うとなった場合、抵当権を付ける際に、土地や建物の売買が絡むのですが、ここでも宅建士が活躍するからです。ほかには、リースマンションを持つ商社でも建物の貸し借りが発生しますので、大手の商社にも宅建士が必要となる部門があります」(同)
30代ニートでもいきなり大手企業に就職も?
宅建士は幅広い業界での需要があるとのことだが、今回話題となった投稿のように、30代でめぼしい職歴がなくても大手企業に就職することは可能なのだろうか。
「コミュニケーション能力がある程度備わっていることが前提ですが、職歴がなくても宅建士の資格を取るだけで就職がスムーズにいくケースは多いでしょう。先ほど申し上げたとおり宅地や建物に関わる業務を行う場合、5名に1名は宅建士を置かなければいけないので、大企業ほどその分頭数が必要になってきます。そのため採用選考時には職歴や実績よりも、まず先に資格を持っていることが高く評価されるのです。
ですから、今まで非正規雇用の職で働いていた人が、宅建士の資格を取ったことで、大企業の正社員として就職できたというケースも少なくありません。また就職の際に有利なだけでなく、社内での昇進や昇給にもつながるでしょう。会社によってさまざまですが、資格手当というものがあって、高いところでは月に5万円支給される企業もありますので、年間60万円の収入増も見込めるのです」(同)
宅建士の資格がいかに就活時に有利かはわかったが、問題は合格難易度だ。
「近年の合格率は15%から17%で推移しており、6人に1人ぐらいの割合しか合格できない難関資格です。宅建士資格取得を目指している人のうち、資格試験予備校に通う人と独学で勉強する人は半々ぐらいで、予備校に通っている人でも合格率は30%程度となっています。このように合格率は決して高くはないですが、ただ司法書士や社労士といった資格の合格率は3%から5%ともっと低いので、それらと比べれば合格できる可能性は高いとも考えられます」(同)
試験合格のために心がけておくことは何かあるだろうか。
「試験の出題傾向は毎年大きく変わらないので、出題されるポイントを押さえて効率よく勉強することが合格に早く近づく方法です。50問のマークシート形式の試験ですが、過去の合格ラインはだいたい35点から37点。ですから満点を狙って細かい知識まで網羅するような勉強法ではなく、過去問などで7割の正答率を毎回維持できるように、試験に慣れていく勉強法がよいのではないでしょうか」(同)
宅建士以外の「人生挽回」できる資格とは?
宅建士以外にも狙い目の資格があるのかも気になるところ。
「管理業務主任者という国家資格もいいでしょう。マンション管理業者が管理組合などに対して、管理委託契約に関する重要事項の説明や管理事務報告を行う際に必要となる資格で、こちらはマンションの管理業を行うにあたって管理事務の委託を受けた管理組合30組合につき1名以上資格保有者を設置しなければならないからです。合格率は20%前後なのでがんばって勉強すれば合格を狙えます。
ほかには、貸金業務取扱主任者という国家資格も、貸金業を営むにあたって従業員50名につき1名以上の資格保有者がいなければいけないので、需要のある資格といえるでしょう。ハローワークの求人などでも、こうした資格保有者を探している企業の求人情報が多く出てきますので、要件付きの資格を持っていれば職歴がなくても就職で有利になるはずです」(同)
宅建士をはじめ、管理業務主任者や貸金業務取扱主任者の合格率から考えると、決して簡単に取得できる資格ではないことはわかる。ただし、就職や転職に苦しんでいる人にとって、これらの資格取得は有効な打開策になりそうだ。
(文=A4studio、協力=並木秀陸/ナルミナスキャリア代表)