新型コロナウイルス感染拡大の影響で、開幕延期となっていた米メジャーリーグが、ついに7月23日に開幕する。日本人メジャーリーガーの活躍が今から楽しみだが、なかでも最大の注目は、右ヒジに受けたトミー・ジョン手術からの二刀流完全復活を目指す大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)だろう。いわゆる“大谷世代”の頂点に立つ選手として、絶えずその一挙手一投足に熱い視線が注がれている。
大谷はメジャーリーグに移籍したが、日本プロ野球界に残っている大谷世代の代表格といえば、やはり広島東洋カープの外野手・鈴木誠也にほかならない。日本代表でも4番を任されるほか、昨シーズンオフには4年連続のベストナインに選ばれるなど、今や完全に“球界の顔”となっている。鈴木以外では、今や中日ドラゴンズの不動のショートストップとなった京田陽太や、昨年のセ・リーグ新人王に輝いた阪神タイガースの外野手・近本光司などの名が挙げられよう。
その一方で、入団時の騒がれ方とは裏腹に、まったく活躍できていない、かなり“がっかり”な大谷世代の選手もチラホラといる。
藤浪晋太郎(阪神タイガース)
そのわかりやすい例が、阪神タイガースの藤浪晋太郎投手だろう。2013年に高卒新人として入団してから3年連続2ケタ勝利をマークしているだけに、“がっかり大谷世代”に入れてしまうのは忍びないが、17年からの3年間の成績は言い訳のできない8勝8敗、しかも昨年に至っては1軍登板わずか1試合に終わり、当然のように勝ち星ゼロと、目も当てられない状況なのだ。
しかも今年に入ってからは、合コンで新型コロナウイルスに感染したことが判明したり、練習に遅刻して2軍落ちしたりと、本業以外のところで話題を振りまくなど、完全に“ネタ要員”になっている。
それでも、これまで多少なりとも活躍しているため、現段階では“がっかり大谷世代”の仲間入り寸前といった感じだろう。なんとか持ちこたえているが、今年復活できなければ、いよいよその立場は危うくなる。
濱田達郎(中日ドラゴンズ)
そんな藤浪以上にがっかりな選手たちがいるから始末に負えない。なかでも、特にドラフト上位で指名され、期待されて入団したものの、いまだ結果を出せていない顔触れをここから紹介していこう。
まずは中日の左腕・濱田達郎だ。愛工大名電高校(愛知)のエースとして12年の甲子園に春夏連続で出場し、先の大谷や藤浪とともに“高校BIG3”として騒がれた逸材である。同年のドラフト会議で中日からの2位指名を受けて入団した。入団2年目の14年に先発ローテーション入りして5勝(3敗)をマークし、その後が大いに期待されたが、なんと同年の8月26日の横浜DeNAベイスターズ戦で先発登板した際に、左ヒジの違和感からわずか11球投げて緊急降板してしまう。
検査の結果、左ヒジの靭帯損傷が判明し、ここから濱田の野球人生が暗転していった。15年は復活登板を果たしたものの勝ち星なしに終わると、16年にはまたも左腕を故障する。そして左肘尺骨神経剥離術を受けたことで育成選手に落ちてしまったのだ。
昨シーズンオフにようやく支配下登録されたが、ここまでの7年間で実働3年、5勝7敗の防御率5.07は、かつての“高校BIG3”としては寂しいかぎり。今季からスリークォーターだった投球フォームを心機一転サイドスロー気味に変更し、復活を期すこととなった。現在の中日のリリーフ陣は左投手が不足しているため、ファームで好投を続け、中継ぎとして生きる道を見つけたいところだ。
矢崎拓也(広島東洋カープ)
2人目は、16年のドラフトで広島に1位指名を受けて入団した矢崎拓也だ。広島ファン以外の人からすると、「矢崎?誰?そんな選手いたっけ?」となる可能性大だが、実はプロ入りしたときの名字は“加藤”で、18年のシーズン前に結婚、その際に奥さんの名字を選択したため、“矢崎拓也”になった。
そんな矢崎は大学時代、慶応義塾大学のエースとして神宮を沸かせ、大学通算24勝(12敗)、奪三振数も309をマークしている。また、4年の秋にはノーヒットノーランも達成したほどの実力。
広島入団後は最速153キロを武器に先発、リリーフどちらもこなせる力投型右腕として期待された。その期待通り、プロ初登板初先発となった17年4月7日の東京ヤクルトスワローズ戦は9回1死まで無安打無得点に抑え、初勝利を挙げる鮮烈なデビューを飾った。
しかし、3年間で手にした勝利はこの1勝のみ。18年は1軍での登板はなく、昨年は1軍に昇格したものの、わずか5試合の登板で勝ち負けなし、防御率も5.63と、まったく振るわなかった。
結局、実働2年で12試合に登板し1勝3敗、通算防御率4.58は、かつての神宮のスターからすると正直、期待はずれもイイトコだろう。
それでも、17年は29回1/3を投げ28奪三振、19年は8回を投げ11奪三振と、三振を奪えるのが最大の魅力。課題は制球難で、今季はオープン戦の成績も登板わずか1試合で防御率18.00と、壊滅的だった。矢崎にとってまさに今年は背水の4年目となっている。
相内誠(埼玉西武ライオンズ)
3人目はある意味、違う角度からの“がっかり”である。その選手とは、埼玉西武ライオンズに12年のドラフト2位で入団した相内誠だ。
相内は千葉国際高校(現翔凛高校)時代に甲子園出場こそならなかったものの、“房総のダルビッシュ”との異名が付けられたほどの速球が武器の本格派右腕。その将来性を見込んでの指名だったのだが、なんと仮契約後に問題を起こしてしまう。無免許運転とスピード違反で警察に摘発されてしまったのだ。これにより高校からは無期限謹慎処分、球団からは入団手続きの一時凍結が発表された。
その後、学校側の謹慎が解除されたことや本人の反省具合も考慮され、翌13年3月に球団側は入団凍結の解除を発表し、相内は晴れてようやくチームの一員になった。ただし、年俸は当初予定されていた700万円から630万円に減額。さらに同年3月末から9月までは千葉県の家庭裁判所による保護観察処分を受けていた。
本家のダルビッシュも、日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)との契約後に、喫煙やパチンコ店への立ち入りなどが明るみに出て無期限停学の処分を受けたのち、プロ入りして活躍した経緯があるので、相内もこれで反省していればよかったのだが、さらに問題を起こしてしまう。入団2年目の14年1月に、未成年ながら飲酒喫煙していたことが発覚してしまったのだ。2年続けての“やらかし”に、球団側も黙って見過ごせるワケもなく、相内に対し6カ月間の対外試合出場停止、夜間外出禁止、ユニフォーム着用禁止などの処分を課したのであった。
その処分が解けたのが7月下旬で、同年9月には一軍登録され、プロ初登板初先発も果たしている(2回2/3を投げ、4失点で敗戦投手)。そこから昨シーズンまで1軍では計21試合に登板しているものの、まだ念願の勝ち星を挙げるには至っていない(通算成績は0勝7敗で防御率は10.05)。
それでも昨季はファームでチームトップの14試合に先発し、防御率2.87を記録している。崖っぷちに追い込まれている今季は、果たして1軍のマウンドで躍動できるのか、注目である。
田中正義(福岡ソフトバンクホークス)
4人目は福岡ソフトバンクホークスの右腕・田中正義である。“ジャスティス”という愛称でご存じの方も多いだろう。
田中は創価大3年時の15年6月末に行われたユニバーシアード代表とNPB選抜との対戦で、NPB選抜から7連続奪三振をマーク。さらに秋の東京新大学野球連盟のリーグ戦でノーヒットノーランを記録するなど、最速156キロを誇る超本格派右腕として、16年のドラフト会議最大の目玉とされていた。同年6月ごろの一部スポーツ新聞では、12球団競合の可能性も指摘されていたほどだ。
当日はさすがに全球団からの1位指名はなかったものの5球団が競合し、抽選の結果、福岡ソフトバンクホークスへの入団が決まった。ここまでは良かったのだが、なんと入団早々のキャンプで右肩に違和感を覚えるなど体調不良が続き、昨年までの3シーズンでわずかに11登板のみ。ドラフト前の即戦力投手という触れ込みはどこへやら……。これまでの主な通算成績は14回1/3を投げて被安打19(うち被本塁打6)、0勝1敗15奪三振で防御率は8.16という散々な成績に終わっている。
今季は大卒4年目となる田中にとって、まさに正念場で勝負の年。昨年は2軍で25試合に登板し、防御率1.80と好成績をマークしているだけに、ドラフトで5球団競合した本格派右腕の真の実力を発揮したいところだ。
佐々木千隼(千葉ロッテマリーンズ)
最後の5人目は、前述した田中正義が5球団競合し、その田中の抽選に外れた4球団とほか1球団が“外れ1位”で指名したスリークォーター右腕である。抽選の結果、千葉ロッテマリーンズが交渉権を獲得した佐々木千隼がその人だ。なんと、外れ1位指名選手としてはドラフト史上最多となる“5球団からの再指名”という快挙を達成した。
その決め手となったのが、桜美林大4年時春秋の首都大学野球リーグで記録した年間7度の完封である。これは東海大時代の菅野智之(読売ジャイアンツ)に並ぶ快挙だったのだ。最大の武器ともいうべき最速153キロの直球とシンカー、スライダーをはじめとする6種類の変化球を武器に、プロ1年目から開幕直後の北海道日本ハム戦でプロ初登板初先発し、見事に初勝利を挙げている。
だが、その後は“プロの壁”にぶち当たり、7月上旬の試合で7敗目を喫し、二軍落ち。1年目は4勝7敗の防御率4.22という成績で終えることになった。2年目はケガ→手術→リハビリで1軍登板自体がなかった。3年目となる昨シーズンも右ヒジに受けた手術開けということもあり、わずか7試合の登板で2勝1敗、防御率2.53にとどまっている。
結局、通算成績は過去3年間でわずか22試合登板、6勝8敗、防御率3.76という、ドラフト時の快挙で話題になった注目の逸材右腕にしては、かなりもの足りない結果となっている。今季は、年間を通して1軍の戦力になり続けることが目標となってくるだろう。
以上の5人が“がっかり大谷世代”の選手である。しかも、なんの偶然か、すべて投手ばかりとなった。果たしてこのなかから、今シーズンついに“目覚める”選手は何人現れるのだろうか。藤浪の復活と合わせて期待したい。