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センバツ甲子園、不可解すぎる選考…公立進学校は優先的に選出?“ヤンチャ”校は不選出?

文=上杉純也/フリーライター
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阪神甲子園球場(「Wikipedia」より)

 春の甲子園「選抜高等学校野球大会(センバツ)」における謎の逆転選考例。2月2日掲載の前回記事『センバツ甲子園、謎だらけの選考(近畿地区編)…文武両道の高校が大好きな高野連』では、近畿地区における謎選考の事例を紹介した。今回は、近畿以外の地区の事例を紹介する。

【ケース4】名門校なら地域性は問われない?

 日本高等学校野球連盟(高野連)が好むのは、文武両道のチームや品位やマナーの点で申し分ない高校、しかもそれが公立校なら申し分ないのだが、私立でも戦前からの流れを汲むような名門なら下駄を履かせられるようだ。その筆頭は、東なら早稲田、慶應義塾といった超名門校で、今回はまさにそのケースである。

 2013年の第85回大会の関東・東京地区に関する選考でのこと。このときの出場枠は6で、関東4、東京1は最初から確定している。そこから関東5番手と東京2番手のチームが比較検討され、最後の1校が決まるシステム。

 その上で、まずは12年秋の関東大会が検討材料になる。優勝は浦和学院、準優勝は花咲徳栄と、ともに埼玉県勢。ベスト4には宇都宮商(栃木)と常総学院(茨城)が残った。当然、この4校は確定となるが、注目は関東5校目である。準々決勝は前橋育英(群馬)3-5浦和学院、霞ヶ浦(茨城)4-5宇都宮商、習志野(千葉)0-12花咲徳栄、佐野日大(栃木)5-6常総学院と、4試合中3試合が接戦となったため、この3校中どこが選ばれてもおかしくない状況である。

 一方の東京はといえば、決勝戦で名門・早稲田実業が全国的には無名の安田学園に1-2で敗れ、優勝を逃すという波乱。こうして安田学園の春夏を通じての甲子園初出場がほぼ決まった。

 問題の関東・東京の6枠目は、大敗した習志野は論外として、霞ヶ浦、佐野日大、早実の3校は“地域性”でマイナスとなる。さらに早実は、1点差とはいえ甲子園未出場の安田学園に足下を救われたのが印象的に悪い。地域性の問題はあるが、関東大会の準々決勝は4試合中3試合が接戦なので、最後の枠は関東に回ると思われた。

 だが、注目の選考結果は、関東から浦和学院、花咲徳栄、宇都宮商、常総学院、そして東京からは安田学園と早実だった。霞ヶ浦も佐野日大も地域性が響きアウトとなり、優勝した浦和学院に善戦して県1位の前橋育英が関東5校目となったのだが、実は前橋育英は初戦シードされており、負けた準々決勝からの登場だったことが災いした。「関東大会0勝」が評価を下げる格好になった。

 だが、県1位のシード校で、初戦敗退しても選出されたケースが過去にはあり、関東大会未勝利というだけで落選したのは、今ひとつスッキリしない。そこで高野連は、「両校の投手力が決め手になった」と、選考理由を語っている。前橋育英はエース・高橋の制球力が不安定だと指摘。だが、実はこの高橋は、この選考委員会の約半年後の夏の甲子園で、2年生ながら優勝投手に輝いた、高橋光成(埼玉西武)なのだ。センバツで落とされたことが発奮材料になったのだろうか。

【ケース5】エースの疲労が原因で負けたので逆転選考

 1999年秋の九州大会は、全国屈指の剛速球右腕・香月良太(近鉄~オリックス~巨人)を擁する柳川(福岡)が力の差を見せつけ、余裕で制した。準優勝は、その柳川に3-17と大敗した佐賀商。ベスト4には柳川に0-8の7回コールド負けを喫した城北と、佐賀商に2-5で敗れた九州学院の両熊本県勢が残っていた。

 このときの九州地区の選抜の出場枠は4枠。普通に考えれば、V校の柳川と準Vの佐賀商、さらにベスト4から九州学院も当確である。難しいのが最後の1枠で、ベスト4に残ったものの、柳川の前に大敗を喫した城北は、同じ熊本県勢の九州学院の選出の可能性が濃厚なため、地域性でも不利となってしまう。

 この城北を逆転するとすれば、準々決勝で柳川に1-5で敗れた延岡学園(宮崎)が地域性の面を含めても有利となる。とはいえ、城北は県大会決勝で九州学院を倒して優勝しているし、柳川に大敗したといってもその柳川の強さが別格であることは、決勝戦のスコアからも明白。よって、延岡学園よりはベスト4の実績を買われて、やはり城北が選ばれるだろうとみられていた。

 ところが、選出されたのは柳川、佐賀商、九州学院、そして最後の4枠目には前評判ではまったく挙がってこなかった“戸畑”だったのである。それもそのはず、戸畑は福岡2位で九州大会に進出したものの、準々決勝で九州学院の前に0-6で完敗しているからだ。何よりも、すでに同じ福岡県勢の柳川が選ばれている以上、地域性が問われて落選してもおかしくない。

 そこで選考理由を見てみると、「城北と8強で試合内容のいい戸畑、波佐見(長崎)、延岡学園の4校で再検討されたが、本格派右腕のエースを評価する声が高く、戸畑が選ばれた」と記されている。

 だが、0-6で完敗している時点で、“試合内容のいい”とはお世辞にも言えないのではないか。さらに当時のスポーツ新聞を読み進めると「戸畑は準々決勝で0-6で敗れたものの、エースが3連投という事情があった。一方の城北は、前日試合がなかったという日程的にも有利な状況ながらコールド負けしたのは選考されるに値する実力なのか、疑問視された」とある。“負け方”が選考材料になったことを示している。

 しかし戸畑は、そもそも福岡県の準V校だ。2位以下で地区大会に進出した以上、日程が熊本県王者の城北ら1位校と比べて不利になるのは明白。この当時の九州大会では、県の1位チームがシードされる一方で、2位以下チームは1回戦から登場するケースが多い。つまり、過密スケジュールは戸畑に限ったことではなかったのである。

 そんな戸畑は、実は福岡県内きっての伝統的な公立進学校である。

【ケース6】コールド負けを喫してもエースに安定感があるので選出

 福岡県の伝統的公立進学校をめぐる不可解な選考は、ほかにもまだある。前述した事例の2年前、97年秋の九州大会のこと。このときは翌98年のセンバツが第70回の記念大会だったため、1枠増えて5校が選出されることになった。

 優勝校は全国屈指の右腕・新垣渚(ダイエー・ソフトバンク~ヤクルト)を擁する沖縄水産で、同校に1-2で惜敗した高鍋(宮崎)が準優勝となった。さらに、ベスト4には東筑と東福岡の両福岡県勢が残ったが、東福岡は高鍋相手に延長10回、1-2で惜敗しているだけに、選出されるのは確実である。

 だが、一方の東筑は、沖縄水産の前に0-10の5回コールド負け。しかもノーヒットノーランを食らう致命的な敗戦を喫してしまう。ベスト8組のなかには、東福岡に1-5で負けた樟南(鹿児島)や、終盤まで1-3と善戦するも最終的には1-9で沖縄水産の軍門に屈した長崎日大などがおり、当然、逆転選考で落選してもおかしくない状況だった。

 ところが、結果的に沖縄水産、高鍋、東福岡に次ぐ4番手で東筑が当選。しかも、その理由が「エースの安定感が買われた」というもの。そう評価されたエースは、準決勝の沖縄水産戦では途中KOされていることを付け加えておきたい。

 ちなみに最後の5校目は樟南と長崎日大の争いとなり、樟南が選ばれている。要は、東筑は増枠の恩恵にあずかったといえる。前述した柳川と戸畑も福岡県勢だったので、どうやら福岡県に関しては、地域性は問われないようだ。東筑も戸畑同様、福岡県内きっての伝統的な公立進学校だ。

【ケース7】“品位”の前に涙を飲んだ“山陰の怪童”

 センバツの出場選考には、チームの実力だけでなく、その高校自体の品位も選出基準となる。いくら成績が優秀でも、品位にふさわしくない面があれば、選に漏れることもある。その“品位”の部分で悲劇が起きたと囁かれているのが、87年秋の中国大会だ。

 この年、中国地区に与えられた枠は4つ。優勝と準優勝は広島工、西条農の広島県勢となり、残ったベスト4は倉吉東(鳥取)と江の川(島根)となった。これなら地域性を考えても広島2、鳥取1、島根1と均等なことから、そのまますんなりベスト4の4校選出で異論のないところだ。

 だが、ここで気になる1校があった。ベスト8敗退組の宇部商(山口)が、好投手・木村真樹の存在で、当落線上に残っているとされたのだ。もしもここから大逆転選考があるとしたら、ベスト4組から倉吉東が外されることが考えられた。というのも、準決勝で広島工の前に1-11と大敗を喫していたからだ。対する江の川は、西条農相手に2-3での惜敗で、どう考えても普通に当選するはずである。

 ただ、倉吉東は伝統的公立進学校で、このときは学校創立80周年、さらに部員わずか16名で奮闘と、いかにも高野連好みのチーム。かたや当時の江の川は、お世辞にも品位が良いとはいえない“ヤンチャ坊主”の集まりだった。それでも不祥事などは起こしておらず、まさか“品位に欠けている”といった理由での落選はないと思われていた。

 注目の選考結果は、広島工、西条農、倉吉東、そして宇部商だった。江の川が落選したのである。しかも選考過程をみると、倉吉東は落選どころか、3番手で当選。その理由も「(広島工に)大敗したが、河野投手を筆頭に、キビキビとした試合ぶりをみせた」という意味不明で説得力に欠ける内容。そして最後の1枠は事前予想通り、投手力が評価されての宇部商だった。

 ちなみに、この年の江の川には“山陰の怪童”と呼ばれた強肩強打の超高校級捕手・谷繁元信(大洋・横浜~中日)が、チームの主軸として君臨していた。それにもかかわらず、その谷繁の存在が完全に無視されていたのだ。江の川はこのときの悔し涙をバネに、続く夏の県予選を勝ち抜き、悲願の甲子園出場を果たしている。そしてその県予選5試合すべてで谷繁はホームランを放った。

 以上、センバツにおける“謎の大逆転選考”の事例を紹介した。改めて振り返ると、当落線上にある伝統的な公立進学校・名門校は、やっぱり強かったという感想である。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

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