間もなく開幕を迎えるカタールワールドカップ(W杯)。今大会は史上初の試みとして、暑さを考慮した11月開催で、欧州ではリーグ戦を中断する変則スケジュールのなか行われる。本大会に進む日本代表は、今月1日にメンバー発表が行われたが、下馬評は低い。ドイツやスペインといった強豪国と同グループとなり、厳しい戦いが予測されている。
森保一監督となってから深刻なのが、代表人気の低迷である。停滞した試合展開が続き、エンターテインメント性にも乏しいという批判は、各マスコミでも行われてきた。代表取材を行うスポーツ紙記者は、「田嶋幸三(日本サッカー協会)会長と森保監督の体制が変わらないと、人気回復は厳しい」と語気を強める。
「戦術や育成、長期的な計画など、とにかくノープラン。これに尽きます。サッカーの内容自体にも一貫性がなく、選手たちから不満の声も聞こえてくるほど。私だけではなく、代表を取材する記者たちは同じような考えの者も多い。今の体制を変えないと、W杯はおろか、サッカー人気の低落にも繋がってくるという危機感もあります」
そんな背景もあって、W杯本大会が本当にこれから始まるのか、現実感に乏しいほど盛り上がりにかけているのだ。その理由を探ると、いくつかの要因がみてとれる。一つは、先述したように、代表のサッカーに面白さがないという点だろう。加えて、古くは三浦知良、中田英寿、本田圭佑のような全国区の知名度を持つ選手が現代表にはいないということである。
「今の代表の面々を見ると、例えば冨安健洋や鎌田大地、遠藤航、伊東純也、三笘薫といった欧州のトップレベルでも活躍する選手が増えて、個々のレベルは高まっています。その半面、選手が“優等生化”しており、本田圭佑のようにビッグマウスで注目を浴びようというようなタイプが減りました。
メディア的にも、数字をとれる選手が本当にいなくなりました。経歴的には10番を背負う南野拓実がその候補でしょうが、ここ数年の彼のパフォーマンスは、かなり厳しいです。代表でも所属クラブでも明らかに通用しておらず、記者のなかからも、今回の選出を『また“アディダス枠”か』と皮肉を込める声が出るくらいです。
今のサッカーファンは目が肥えており、中途半端に人気取りに走ると“代表離れ”は加速するでしょう。コアなファンへ向けてアプローチしていくのか、それともより広い層に訴求するのか。協会はそういった方向性も定まっていないようにも見えます」(同)
莫大に膨れ上がった放映権料
もう一つの要素はメディアへの露出が変わってきていることが挙げられる。今大会は、地上波での放送がかなり限定的だ。ABEMAが全試合の放送権を持っているが、そもそも地上波で放送しない試合が半数近くある。日本テレビとTBS、テレビ東京に至っては、1試合も放映予定がない。
視聴率は見込めるとはいえ、莫大に膨れ上がった放映権料をペイすることは難しく、昨年の段階でNHKと民放が共同で金額交渉していたが、あえなく頓挫している。テレビ局におけるW杯の捉え方も確実に変化しているのだ。
「日本がW杯に初めて出場した1998年の国内放映権が5億5000万円といわれています。それが今回は200億円近くまで上昇しており、いくらなんでも上がりすぎです。テレビ局の体力も弱くなっている時代に、この額を払うことは二の足を踏むのは当然でしょう。撤退した社のほうが賢い判断だと思いますね。
さらにいうと、上層部がサッカーに関心がないという社も少なくなく、むしろ毛嫌いしている節もあります。大谷翔平や井上尚弥、八村塁、大坂なおみ、渋谷日向子など本当の意味で世界トップクラスの日本人選手が出てきている今、あえてバカ高いW杯に注力する“うまみ”がほとんどないのです」(キー局編成部門社員)
最後に、サッカー界全体でW杯のプライオリティが年々下がっていることも大きな理由の一つだろう。プレミアリーグを筆頭とした欧州リーグの価値が高騰し、自ずと優秀なスタッフも集う。当然、集まってくる金も桁違いとなっている。
「前提として、昔と異なり、世界のサッカー界におけるW杯の優先順位が下がってきているのは間違いありません。その理由は、チャンピオンズリーグやプレミアリーグといった欧州サッカーの価値が年々上がり続けていること。特にプレミアリーグの放映権料は1兆6100億円を超え、この数字は10年前の2倍に伸び、今や全スポーツのなかでもっともビジネス価値が高いコンテンツに数えられるほどです。
欧州全体の傾向として、W杯よりもプレミアリーグやラ・リーガ、ブンデスリーガを含む自国リーグへのほうへの注力が強まっています。野球で例えるなら、WBCとメジャーリーグのような関係です。特に監督人事がそれを端的に表しています。フランスのデシャンやオランダのファンファール、スペインのルイス・エンリケ、ブラジルのチッチといった一部の例外を除けば、世界的な名将は今や代表監督には就かなくなっています。クラブと各国のサッカー協会のパワーバランスも、クラブのほうが強くなっているのが現状です」(スペイン在住の代理人)
とはいえ、いざ本大会が始まると“それなりに”盛り上がるのが日本の国民性でもある。大会が始まるとメディアの報道も増え、脚光も浴びるだろう。ただし、一定の盛り上がりを見せるためには、結果と視聴者を惹きつける内容も求められる。
森保監督と田嶋会長体制への期待値は極めて低いと言わざるを得ないが、W杯では下馬評が低かったチームほど結果を残した歴史もある。4年に一度の祭典だけに、再び日本サッカーへの注目度が高まるような躍進を見てみたい。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)