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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(5月第2週)

二股連載・野口悠紀雄のコラムに助けられた? 今週の大手経済2誌

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毎日の仕事に忙殺されて雑誌を読む間もないビジネスマン必読! 2大週刊経済誌「週刊東洋経済」と「週刊ダイヤモンド」を比べ読み。小難しい特集を裏読みしつつツッコミを入れ、最新の経済動向をピックアップする!

<起業がしやすくなった! がその先のコストには触れていない「ダイヤモンド」 >

「週刊ダイヤモンド 5/12号」の大特集は、「その経験はカネに変わる! サラリーマンのらくらく起業術」。年金受給開始年齢の引き上げもあって、60歳定年の会社では会社人間をまっとうできなくなってきた。ならばいっそ、これまでの経験を生かして一発勝負を! というゴールデンウイーク明けの会社に行きたくな~い人々の心を鷲づかみにしようとする企画だ。

「経験をカネに変える」とあるように、読者想定層は50代と高め。「還暦を迎えてからの起業で30歳とタッグを組んだ理由」というインタビューに出てくるライフネット生命保険社長の出口治明氏がロールモデルのようだ。

 そんな特集のPART1は「今時のデジタル起業ツール」として、ネット革命によって起業というハードルはかつてより格段に低くなっている現状をレポートしている。会社設立はサイト「会社設立ひとりでできるもん」、人脈はSNS(ソーシャルネットワーク)、電話はスカイプ、資金はクラウドファンディングでらくらくに起業ができるという。たしかに、かつてよりは格段に起業しやすいが、こうしたツールを使いこなせる50代がいれば、今の会社でそのスキルを十分に発揮し独立の必要がないか、すでに独立しているのではないかとツッコミをいれたくなる内容だ。

 また、こういった特集ではありがちな、起業の成功者を紹介する記事も特集PART2「事例で見る脱サラ起業の要諦」に掲載されている。しかし、こうした成功談に登場する成功者は大手メーカー社員や大手コンサル会社社員など、人脈やノウハウなどが十分で独立がほぼ約束されたような人々なうえに、前向きな性格の人が多いので失敗点がなかなか出てこない点に注意が必要だ。結局、記事全体がバラ色の起業しか描けなくなってしまうのだ。この特集もその懸念は的中する。

 特集の中で表として掲載されている日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」の「開業前の支出予想との相違」を見ても「開業前には知らなかった支出がある」という項目は40%超とダントツなのだが、開業後にいくらお金がかかるのかという起業にとって重要なポイントは残念ながらこの特集ではフォローされていない。

 実は、開業前のハードルは下がったものの、開業後の出費は相変わらず高いままだ。賃料、人件費のほかに、税金に社会保険料の会社負担分など、さらに「こうした出費を下げますよ」と寄ってくる税理士や社会保険労務士への顧問料もかかる……。ゴールデンウイーク明けの憂鬱な一週間の始まりに「独立をすすめる」にはバラ色すぎて無責任な内容かもしれない。

 そして皮肉なことにこうした無責任な特集をフォローするようなコラムを書いていたのは、野口悠紀雄・早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問だ。連載コラム「『超』整理日記」の今号のタイトルは「社会保険料徴収の体制確立が急務だ」。年金保険と医療(介護)保険といった社会保険料の事業主負担は利益と無関係にかかり、企業競争力に大きな影響を与えている。重要な社会保険料でありながら、とくに国民年金は納付率が大きく減っている。「ただちに本格的な作業に着手する」と閣議決定されている「歳入庁」構想も宙に浮いたままだという内容だ。

 実は起業した人が驚くのが、この社会保険料の事業主負担の大きさ。支払う給料に比例して、確実に毎月出て行くのだ。さらに、起業者の多くは、個人事業主として納付率が低いとされる国民年金に加入することになる。社会保険料の負担が増せば、ますます開業後の負担は大きくなる。こうした背景を知っていると野口氏のコラムの内容が意味深長に読めてくるのだ。

<米国は好調なのか不調なのか、週ごとに主張が変わる「東洋経済」>

 一方、「週刊東洋経済 5/12号」の特集は「世界1億台の争奪戦 日本車大反攻!」、5月9日に発表されるトヨタ自動車の13年3月期の業績予想が注目を浴びている。今期の業績は、大震災や洪水からの生産正常化、円高修正、エコカー補助金の復活で、好転しており、今期の営業利益は1兆円を超えるのではないかと見られているからだ。過去最高の2兆2700億円(08年3月期)には及ばないものの、V字回復となりそうなのだ。

 しかも、世界の新車販売台数は12年の7900万台から17年には1億台を超える見通しで、成長著しい新興国の比率が6割を占めるに至るという。自動車メーカーにとっては、中国、インドのマーケット獲得が課題だ。今号では中国マーケットをめぐる各社の戦略が紹介されている。

 日産はブランド「ダットサン」を復活させて、新興国への切り札とする。ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)は車をモジュール化して頂点を目指す。そしてトヨタはハイブリッド車で勝負をかけるが、韓国の現代自動車などと、今後も激しい戦いが続く……といった具合だ。

 特集を読んで、「自動車メーカーはイケイケなのか!」と思いきや、「中国における自動車事業に関して、多くの人が誤解、あるいはイルージョンに陥っている」と中国市場一辺倒への警鐘をならすコラムが掲載されていた。こちらも執筆者は野口悠紀雄氏。野口氏は「東洋経済」では、「日本の選択」というコラムを掲載中なのだ。今号のタイトルは「中国自動車展開の大いなる幻影」。中国では、購入層が広がるにつれて低価格車にシフトしつつあるので、薄利多売になってしまい、日本の自動車メーカーは、思ったような利益が上がらないのではないか、という指摘だ。

 「ダイヤ」「東経」と大手経済2誌をまたにかけて、今はやりの”二股連載”をする野口氏だが、特集記事に冷や水を浴びせかける野口氏の指摘があって両誌とも全体のバランスがとれているといえそうだ。「ダイヤモンド」も同様だが、オピニオンが重視される新聞ならともかく、時には相反するようなさまざまな意見が掲載されることは雑誌の魅力でもある。

 野口氏の言う通り、ではやはり、これまで戦後日本の成長を支えてくれたように、アメリカ市場の回復に期待するしかないのか……? たしかに今回の「東経」の特集の中には「米国 やはりドル箱市場 米国が予想外に回復へ メリット大の日本勢」という驚きの記事もあった。リーマンショック以後、近年にない低水準に落ち込んでいたアメリカの自動車販売が力強さを持って回復している。さらに「低燃費車への買い替え効果」「日本車の在庫回復」「(米国の金融緩和による)金余り」といった要因が予想外にアメリカの国力を回復させたという。

 なぜ、この記事が驚きかといえば、一号前の『週刊東洋経済 4/28・5/5合併特大号』の第3特集が、アメリカ経済は期待できないというものだったから。これによれば最近の主要指標は米国の景気回復を示しているが、実は暖冬だったことが景気指標をかさ上げしていたのではないか? 13年には再び緊縮財政をせざるをえない状況になっており、当面は金融緩和の効果も長続きせず、「市場では楽観と悲観が繰り返される」。本格回復は15年以降となるのではないかという話が説得力を持って語られていた。

 ゴールデンウイークの連休を境にして、「米国経済は改善していない」から「米国経済は予想外に回復していた」に変わるなんて、いったい、どっちやねん! とツッコミを入れたくなるような変わりようだ。いくらさまざまな意見を掲載する雑誌とはいえ、舌の根も乾かないうちに反対の見方をとる記事を掲載するのはいかがだろうか!

 たしかに、見る指標によっては楽観にも悲観にも見ることができるという点は経済には否定できないが……。

 しかし少なくとも、今回の第2特集「4つのリスク要因で検証 日本株は持ち直すのか?」の「厳選 上昇期待が高まる割安株550」で、東洋経済新聞社ドル箱の『会社四季報』の最新データを基にした厳選ランキングが掲載されているが、こうした二枚舌ではそう簡単に割安株に飛びつけなくなってしまうではないか。
(文=松井克明/フィナンシャル・プランナー)

BusinessJournal編集部

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