日本経済新聞は5月8日付朝刊1面で「丸紅は米国の穀物3位、ガビロン(ネブラスカ州)を買収する。親会社の米ファンドなどから38億ドル(約3000億円)前後で発行済みの全株式を取得する方針」と報じた。前日、7日の決算会見で、丸紅の朝田照男社長(63)はガビロン買収について「当社も米国に強い穀物トレーダーとして興味は持っている」と述べたのがヒントになったのかもしれない。
ガビロンはカーギル、ADRに次ぐ米国3位の穀物大手。米国内に集荷設備など145カ所の拠点を持つ。年間の取扱量は2000万トン前後でトウモロコシや小麦が主力だ。
丸紅の12年3月期の穀物取扱量は約2200万トンで、世界では6位グループだった。それがガビロンを傘下に収めると、丸紅の取扱量は年4000万トン規模となる。穀物メジャートップのカーギルのそれは、4000万トン前後で、カーギルと肩を並べ世界首位級に浮上する。
穀物メジャーのお株を奪う積極投資で丸紅は、取扱量を急激に拡大している。穀物部隊の先頭に立っているのが、スカウトしてきた凄腕の穀物トレーダーたちだ。競争力のある買い付け力、安定的な販売力、効率的な輸送力の3つをいかにうまく組み合わせるかが穀物トレーダーの腕といわれている。
2006年に当時、穀物の世界を動かす25人のトレーダーの1人に数えられていた食品専門商社、東食の若林哲氏(58)を引き抜いたのを手始めに、その後も丸紅は、穀物メジャー4社を渡り歩いた辣腕トレーダー7人を年収数億円の高待遇でスカウトした。東食時代の若林氏は、崩壊前のソ連で業界最大手の米カーギルを凌ぐ量のトウモロコシを売買するなど、世界に名を轟かせていた。
丸紅は11年4月、旧食料部門を再編・改組し、穀物、畜産、農産の事業分野で構成する食糧部門を新たに立ち上げた。食糧部門長には執行役員に昇格した若林氏が就いた。転身5年で執行役員・食糧部門長になったわけだ。前例を見ないスピード出世といわれた。
この間、丸紅の穀物部隊を率いてきたのが、昨年、常務執行役員に就任した岡田大介・前食料部門長(55)。丸紅の岡田氏と東食の若林氏は、若手の社員時代から、よきライバルだった。実は、若林氏を引き抜いてきたのは岡田氏である。近年の穀物部隊の躍進を引っ張ってきた岡田氏の一番の理解者である若林氏が、穀物部隊を引き継ぐことになった。