雨が降るとプロ野球の試合が中止になり、球場で弁当を販売する業者の売り上げはゼロになる。そんなリスクを回避するため、あらかじめ掛け金を支払うと試合中止時に補償金が支払われる金融派生商品(デリバティブ)がある。
ホテルやレジャー施設などで広く利用されるものだが、巨大地震に対応するタイプがあることはあまり知られていない。英語で巨大災害債券を意味する「カタストロフィー・ボンド」、いわゆる「キャットボンド」だ。雨天のような日常的な自然現象とは異なり、300~500年に一度といった低頻度の巨大災害が起きると補償額を受け取れる仕組みだ。
キャットボンドが成り立つのは、「3~5年の契約期間中に、条件に合致する地震は起きない」と予想して、購入する投資家がいるためだ。地震が起きなければ投資家は利子収入を得る。しかし地震が起きれば、多額の補償金の受け手として設定されている企業向けに、投資家はその原資を分担して負担しなければならない。
「分散投資をする上で、株式、債券、資源などの値動きと全く関係ない投資先として需要があるのです。保険関連商品に専門的に投資する欧米ヘッジファンドのほか、年金基金がキャットボンドに投資しています」(キャットボンドに詳しい外資系保険関係者・A氏)
再保険世界最大手の独ミュンヘン再保険によれば、2010年の世界のキャットボンド新規発行高は約50億ドル(約4000億円)に上り、前年比42%増と急激に拡大しているが、実は東日本大震災で、約240億円という巨額の”リターン”を得た日本企業があったという。
「農家向けの損害保険サービス・共済を提供する、JA共済(全国共済農業協同組合連合会)です。08年に契約し、大震災が契約条件に合致したので11年夏に3億ドル(約240億円)の支払いを受けました。当時、ニュースリリースを発表する予定でしたが、『震災で大儲けしたと誤解されてはマズい』と思ったのか、取りやめました。そのため、日本のメディアではほとんど報道されませんでした」(A氏)
その後、同共済は12年2月になって、従来と同内容での契約更新を発表した際、「東日本大震災が世界で初めて元本全額回収事由に該当し、発行金額3億米ドル(約240億円)全額を回収し、建物更生共済(保険)の共済金支払財源の一部として充当しました」と明らかにしている。キャットボンドを契約したことで、建物更生共済の支払総額8416億円の約3%をカバーすることができた計算になる。
いっぽう、キャットボンドを契約しながら、支払いを受けられなかった会社もあった。
「地震による鉄道施設の損害に備えて契約したJR東日本です。条件に合致しなかったため、支払いを受けられませんでした。その条件とは、『東京駅から半径70キロ以内を震源地とする一定マグニチュード以上の地震が起きると、最大2億6000万ドルの支払いを受ける』というもの。東日本大震災の震源地は70キロより遠かったため、ダメだったのです」(A氏)
A氏によれば、昨年の大震災を受け、密かにキャットボンド契約を検討する大企業が増えているというが、多額の補償金を”取りっぱぐれない”ためにも、契約条件は入念に詰める必要があるといえよう。
(文=谷道健太/ジャーナリスト)