JA大樹町の女性職員(27)が40件以上の顧客の定期預金を無断で解約し、計約6700万円を着服していたことが発覚した。この職員は着服した金を食費や遊興費に使っていた。JAでは職員による無断解約や着服、自爆営業の横行など問題発覚が後を絶たないが、背景には何があるのか。そして、JAの貯金口座や共済などを契約するのは危険なのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
女性職員は貯金課に勤務しており、JA大樹町はすでにこの職員を懲戒解雇し、刑事告訴を検討している。職員は着服した現金の一部をごみステーションに廃棄したという。JA職員による不正は後を絶たない。昨年にはJAセレサ川崎が高齢女性の貯蓄性商品「一時払養老生命共済」を無断で解約し、代わりに終身共済を新規で契約していたことが発覚。職員が女性からハンコを借りて押印していたとされる。JAではこのほか、直近5年で行政処分が行われた不祥事だけでも以下が発覚している。
※以下、左からJA名、監督庁、処分年月、処分の種類、主な処分原因
JAさが、佐賀県、2018年4月、業務改善命令、職員の横領
JA壱岐市、長崎県、2018年9月、業務改善命令、金利優遇事案対応の不備
JA常陸、茨城県、2019年3月、業務改善命令、職員の横領
JA対馬、長崎県、2019年7月、業務改善命令、職員による共済金の不正流用
JAふじ伊豆、静岡県、2020年9月、業務改善命令、役職員の横領
JAおおいた、大分県、2020年10月、業務改善命令、職員の横領と役員の隠ぺい
JA高知県、高知県、2022年2月、業務改善命令、食品の不適切な製造・表示
たとえば「JAおおいた」では19年、2人の職員がそれぞれ1987万円、283万円を着服していたことが発覚。20年には別の職員が契約者の積立金921万円を着服し、担当理事が事実を認識しつつ本店に報告せず隠蔽していたことが発覚。23年には別の職員が農家でつくる部会の口座から現金1700万円を不正に引き出して着服していたことが発覚している。
JA職員による流用の事例は枚挙に暇がないが、大きな問題となったのが職員による自爆営業の横行だ。JAでは、職員が共済について高い販売目標数値、ノルマが課され、職員自身やその家族などが契約主となり不必要な保険を購入する「自爆営業」が横行。事態を重く見た農林水産省は昨年2月、共済事業の監督指針を改正し規制を強化。JA職員が「不必要な共済契約を強要された」などと通報した事例を「不祥事」と位置づけ、通報した職員の所属するJAは1カ月以内に監督庁の都道府県に報告しなければならないとした。都道府県はJAに聞き取り調査し、不祥事に該当すると判断した場合、JAは再発防止策を取り、悪質なケースでは業務改善命令を出す。
JAグループとは
JAとは農業協同組合、いわゆる農協の呼称であり、組合員である農家向けに農業技術の指導をしたり、農業生産に必要な肥料や農薬などの資材を共同で購入したり、農畜産物を共同で販売したりしている。このほか、貯金、共済、住宅ローンや教育ローンなどのローン、融資などの信用事業や、生命、建物、自動車などの共済事業も行っている。
「農家向けの結婚相談センターを設けたり、駐車場を運営したり、賃貸住宅の紹介をしたり、年金や葬儀の相談を受けているJAもあり、その業務範囲は本当に広い」(自治体職員)
共済とは保険のことであり、JA共済連(全共連)が仕組開発、審査、査定、資産運用などを担当。各地のJAがJA共済の取り扱い窓口となっている。
JAグループはJA共済連のほか、JAグループの総合指導機関であるJA全中、農家への技術・経営指導、資材供給や共同利用施設の設置、農畜産物の運搬・加工・貯蔵・販売などを行うJA全農、JA・JF(漁業協同組合)からの出資や企業からの預金、JA・JFを通じて個人から預かった資金を運用する農林中央金庫などから構成される。ちなみにJAバンクとは、JA、農林中金とその都道府県組織であるJA信連から構成されるグループの名称である。
巨大な組織を維持するためにJA職員に無理なノルマ
JAで不祥事が絶えない背景について中央省庁の官僚はいう。
「JAの業務を管轄する監督行政庁がどこなのかが分かりにくく、国や自治体による監視が行き届きにくい。昨年の自爆営業に関する規制は農水省が出したが、各地の農協の共済事業は都道府県、全共連は農水省が監督することになっていてバラバラ。また、農家や個人とのやりとりの窓口はJAとなっているが、バックには中央組織として全中、全農、全共連、農林中金などが存在し、これらの組織の業務を事実上、JAが一手に委託されているようなかっこうになっており、毛並みの違う幅広い業務がJAに集中している。その結果、各地のJA内部で職員に強い負荷やストレスがかかっているのかもしれない。
また、全国のJAの役員・職員数は20万人近くに上り、そこに全共連や農林中金などが加わったJAグループ全体の職員数は膨大になっているが、組合員である農家の数は減少傾向であり、巨大な組織を維持するためにJAの現場職員に無理なノルマが課されているのでは」
また、金融業界関係者はいう。
「JAの貯金口座や共済、ローンといった金融商品は基本的には組合員である農家を対象としており、そもそもパイが限られている。農家以外の個人も利用することは可能だが、一般の人でJAの貯金や共済、ローンに加入しようと考える人はほとんどいない。そうしたなかでJAや全共連といった大きな組織を維持していくために、非現実的なノルマが職員に課されているのでは。JAの業務は金融に限らず、農業技術指導をはじめとする農家の支援や農畜産物の流通・販売など幅広く、職員全員が金融の業務や知識に明るいというわけではなく、ストレスやノウハウ不足といった点が、自爆営業や横領、無断契約・解約といった不祥事を生んでいる面もあるのでは。もっとも、ここまで不正が多いとなると、JAにお金を預けるのは危険な行為だという認識を持ったほうが無難かもしれない」
(文=Business Journal編集部)