政府はすでに、4月3日に農業関連法の改正案を閣議決定している。こちらは、全国農業協同組合中央会(JA全中)を一般社団法人とし、地域農協への監査権限を削るというものだ。地域農協は、公認会計士や監査法人による監査が義務付けられる一方、独自の経営が可能になり、競争原理を植え付けられることになる。
要するに、近代化によって農業の生き残りを図ろうとするものだ。そのベースのひとつとなっているのは、13年12月に決定された「農林水産業・地域の活力創造プラン」である。これは、今後10年間で農業・農村所得を倍増させ、市場規模を1兆円から10兆円に拡大するという内容だ。
しかし、これについては批判も多い。そもそも、米などの農産物価格が2倍になるわけではなく、食料自給率も2倍になるわけではない。そんな中、10年間で農業所得を倍増させることは可能なのだろうか。
3月24日の「食料・農業・農村政策審議会」で提出された資料によれば、農業所得は13年度の2.9兆円から、25年度には3.5兆円で1.2倍、農村地域の関連所得は13年度の1.2兆円から25年度には4.5兆円と3.8倍に増加し、総計で4.1兆円から8兆円のほぼ倍増になるという。
これに対して、民主党の玉木雄一郎衆議院議員は、4月15日の農林水産委員会で、「農業所得自体は倍増していないが、農村地域の関連所得で膨らませて(その結果、2倍にして)いる」と批判を展開した。
また、玉木議員は「農村地域」の範囲についても質問し、林芳正農林水産大臣が「定義はないが、(数字は)市場全体の規模に農村の帰属割合をかけあわせて出したもの」と、答弁し、その範囲が「推測」であることを明らかにしている。
政府与党が夢のような農業政策を描くのは、環太平洋経済連携協定(TPP)参加のためであり、農協改革もその一環である。当初は農協改革に強い抵抗を見せたJA全中も妥協し、TPP反対のみに照準を合わせ、与党にすり寄る姿勢を見せている。
象徴的だったのは、5月19日に行われたJA全中主催の反対集会だ。同日、衆議院の農林水産委員会が行われていたが、反対集会に与党の理事のみが呼ばれて中座したため、同委員会が中断されるという前代未聞の事態が起きた。
同委員会は夕方に再開されたが、この日は午後に衆議院本会議が開かれ、安全保障法制の関連法案審議に関する特別委員会が設置された。さらに、その2日前に江田憲司代表が辞任を表明した維新の党は、新代表を選任することになっていた。参議院でも、農林水産委員会が開かれており、この日は1日中混乱した。
JA全中の「政府与党にすり寄る体質」に対して、民主党は農協法改正に「政治的中立性の確保」を盛り込んでいる。
JA全中の管理から地域農協を解放するだけでは、農協改革は不可能だ。政府与党に頼らない自主性を持ってこそ、日本の農業は世界に通用する競争力を得ることができるだろう。
(文=安積明子/ジャーナリスト)