例年、日本のマスメディアを悩ます大型連休の“ニュース枯れ”を救った話題の一つが、訪米した安倍晋三首相が4月29日に行った米連邦議会上下両院合同会議での演説だ。
その最大のポイントとして、先の大戦の位置づけが日本の新聞、テレビを賑わせた。安倍首相が「痛切な反省」や「アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない」などと述べたことを捉えて「米国では概ね好評だった」とか、「植民地支配」と「従軍慰安婦」への言及がなかったことに中韓両国が「反発している」と報じている。
しかし、米政府が自分たちの招いたゲストの演説を高く評価するのは普通のことだ。日本と対立を続ける中韓両国が演説に好意的な反応をしないのも当然だろう。
それら日本メディアとは違い少しユニークだったのが、米国メディアの反応である。米政府とは一線を画し、安倍首相や日本に歴史認識や痛切な反省とは別のことを期待し、その点からみれば不十分だとはっきり批判している。一体、米メディアは、あるいは米国民は何を望んでいたのだろうか。
年末年始やお盆と並んで記者泣かせなのが、4月下旬から5月初めにかけての大型連休だ。世の中が一斉に休日に入り政治・経済もののニュースが払底するため、白紙の新聞を出さない工夫や、テレビのニュース枠穴埋めに頭を悩ませるのである。さらに米ワシントン駐在の記者には、もう一つうんざりすることがある。長く厳しい冬が終わり、一気に気温が上がりベストシーズンに入る時期を狙い、国会議員や中央官僚が大挙して“視察”に訪れるのだ。大した要件のない向きにとって記者は格好のお相手らしく、米政府関係者とのアポイント取得をねだられたり、ヒアリングと称して朝、昼、夜の食事や酒に付き合わされたり、果ては視察報告の下書きまで頼まれたりで、日常の取材活動の妨げになりかねない。
とはいえ、今回の安倍首相訪米をその種の雑用感覚で受け止めたワシントン駐在員はいなかったはずだ。米議会演説そのものは安倍首相の祖父である岸信介氏や所得倍増計画を掲げた池田勇人氏ら歴代首相も経験済みで、それほど珍しくない。しかし、両院合同会議となると、話は違ってくる。最大級の外交的な名誉を与えるもてなしで、日本の首相として初めての快挙なのだ。
まさか3月のネタニヤフ・イスラエル首相のような“事件”にはならないだろうが、安倍首相に失言でもあれば大ニュースだ。ネタニヤフ首相は、共和党指導部がホワイトハウスや議会民主党に断りなく招待し、関係者の反発が根強い中での議会演説になった。そして、案の定39分間にわたる演説でオバマ政権の対イラン政策をことごとく批判。「元首を批判する場を議会が与えた」と大騒ぎに発展した。