ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 安倍首相演説、米国メディアから酷評  > 3ページ目
NEW
町田徹「見たくない日本的現実」

賞賛された“はずの”安倍首相演説、なぜ米国メディアから酷評されたのか?

文=町田徹/経済ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, , ,

 最後に安倍首相は戦後の混乱期や東日本大震災直後にアメリカが同盟国として日本に与えようとしてくれたのは「希望」だったと指摘。両国の同盟を「希望の同盟」と呼び、日米両国が「力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所にしていこう」「一緒でなら、きっとできます」と、45分間に及ぶ演説を締めくくった。

 補足すると、演説はユーモアも交えていた。冒頭で「フィリバスター(長時間演説して議事を妨害すること)をする意図も能力ない」と言ってみたり、留学時代の話に関連して、下宿の女将さんがいつも「(亡くなった旦那さんのことを)ゲイリー・クーパーより男前だった」と自慢していたが、自分は昭恵夫人が「自分をどう思っているかあえて聞かない」とおどけてみたりという調子で、議員たちに親しみを感じてもらおうという意図が込められていた。実際、スタンディングオベーションを何度も得たようだ。 

日米間の報道の温度差

 日本における報道をみると、上院議長を兼任するバイデン副大統領が「日本側に責任があることを明確にした」「すべてのアジア近隣国への共感を伝えた」と述べており、米政府・議会が安倍首相の演説を高く評価したと報じられている。安倍首相の帰国後、両首脳がツイッターを通じて謝意を表し合ったが、その中でオバマ大統領が「日米関係がこれほど強固だった例はない」と、改めて日米同盟の堅い絆を強調する一幕もあった。

 とはいえ、この演説に関する日本国内の報道は、好意的なものばかりではない。特に「植民地支配」と「従軍慰安婦」の問題に触れなかったことに批判的な記事が目立ち、その根拠として、中国政府が公式コメントを避けたことや、韓国のユン・ビョンセ外相が「正しい歴史認識を示す絶好の機会を逃し残念だ」と指摘したとされる通信社電などを列挙する報道が溢れている。

 だが、ほとんど日本で報じられていないが、米国にも明確な安倍演説への批判が存在した。それは、米有力メディアの報道だ。裏返せば、その点こそ多くの米国市民が関心を持ち、日本と安倍首相に期待、もしくは警戒したりしていたと取れる。

 例えばリベラルで知られるニューヨークタイムズは29日の電子版政治面で『安倍晋三首相、演説で貿易協定の突破口に言及せず』という見出しの記事を掲載。リード部分から、安倍首相が「日本はいま、経済改革の『クォンタム・リープ(量子的飛躍)』のさなかにあると自画自賛しながら、難航する太平洋地域の貿易協定に懐疑的な上下両院の議員たちに、合意を後押しするような具体的な譲歩を一切示さなかった」と酷評した。
 
 また、米国唯一の全国紙であるUSAトゥデイは、30日付電子版で『安倍首相、議会演説で貿易協定の後押しを要請』という見出しの記事を掲載。その中で、安倍首相が「私たちは、長年続いた農業政策の大改革に立ち向かっています。60年も変わらずにきた農業協同組合の仕組みを、抜本的に改めます」「日本は、どんな改革からも逃げません」と強調したことを取り上げた。そして、かねてTPPに批判的なミシガン選出のサンディ・レビン議員のコメントを引用、「首相の演説には、長年閉鎖的な農業や自動車の市場を開放するという兆候がなんら見いだせない」と切り捨てた。

町田徹/経済ジャーナリスト

町田徹/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
1960年大阪生まれ。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社に入社。
米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。
雑誌編集者を経て独立。
2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。
2019年~ 吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員
町田徹 公式サイト

賞賛された“はずの”安倍首相演説、なぜ米国メディアから酷評されたのか?のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!