農業共同組合(JA)の職員が共済(保険)事業の営業目標(ノルマ)を達成するために身銭を切って契約を結ぶ「自爆営業」の問題は、農林水産省が2月に共済事業の監督指針を改正し規制を強化したのを機に、歯止めがかかったように見える。しかし、沈静化は表面上にとどまり、依然として「過大ノルマの強要はなくなっていない」という職員の声が消えていない。改正監督指針には自爆営業の認定は職員の自己申告を前提とするという弱点があり、それが問題の根絶につながっていない理由といえそうだ。
「今も職場にノルマ達成を促すメールが流れてくる」「過大なノルマを押しつけられても通報できる職場環境にない」。監督指針の強化後も当サイトには窮状を訴えるJA職員の声が届く。報道を見ても、高齢者が職員に無断で共済を解約されるという被害に遭ったり、JA職員がノルマに耐え切れずに辞職するというニュースが後を絶たない。
消えない自爆営業
自爆営業が社会問題化したのは2020年、JAおおいた(大分市)で相次いで発覚したのがきっかけだった。JAの設けた第三者委員会の調査報告書によると、調査対象の職員の約7割が給与総額の1割以上を掛け金として支出していたことが判明した。報告書は組織的なノルマ強要の風潮について、上司の間には「『ノルマが重いという職員は怠け者である』という共通認識が存在する」と指摘し、「この幹部の感覚こそが異常」と断罪した。これを機に全国各地のJAでも同様の自爆営業が横行していることが分かり、農水省は監督指針の改正に乗り出した。改正を踏まえ、政府の規制改革推進会議は3月、農水省やJA共済連にヒアリングをし、監督指針の運用実態やガバナンスの再構築、通報窓口の改善などについて同省に対応を促している。
改正指針では、職員が「不必要な共済契約を強要された」などと通報した事例を「不祥事」と位置づけ、通報した職員の所属するJAは1カ月以内に監督庁の都道府県に報告。都道府県はJAに聞き取り調査し、不祥事に該当すると判断した場合、JAは再発防止策を取り、悪質なケースでは業務改善命令を出す。だが、不祥事の認定が職員の通報に委ねられている指針の「建てつけ」を疑問視する指摘が根強い。元JA職員の1人は「上司に目をつけられるリスクを振り切って通報できる勇気のある職員はめったにいないだろう。どの職員も生活があり、解雇や不当待遇を恐れ、結局は口をつぐむのではないか」と話す。
農水省協同組織課は「不必要な契約に当たるのかどうかは職員本人しか判断できず、自己申告制にした」とした上で、「申告しやすい環境をつくるようあらゆる機会を通じてJAを指導している」と述べる。しかし、指針が職員の自己申告を前提にしている限り、実効性に疑問の残る印象はぬぐえず、共済に詳しい関係者は「現に指針改正後もノルマ強要を訴える職員の声が消えていない現状こそが、指針が『絵に描いた餅』になりかねないことを裏づけている」語っている。
(文=Business Journal編集部)
【JAに対する最近5年間の主な行政処分】
※以下、左からJA名、監督庁、処分年月、処分の種類、主な処分原因
JA佐賀、佐賀県、2018年4月、業務改善命令、職員の横領
JA壱岐市、長崎県、2018年9月、業務改善命令、金利優遇事案対応の不備
JA常陸、茨城県、2019年3月、業務改善命令、職員の横領
JA対馬、長崎県、2019年7月、業務改善命令、職員による共済金の不正流用
JAふじ伊豆、静岡県、2020年9月、業務改善命令、役職員の横領
JAおおいた、大分県、2020年10月、業務改善命令、職員の横領と役員の隠ぺい
JA高知県、高知県、2022年2月、業務改善命令、食品の不適切な製造・表示
(農水省まとめ)