2015年12月、在日米国商工会議所が「共済等と金融庁監督下の保険会社の間に平等な競争環境の確立を」との意見書を公表した。同会議所は、米国政府の米国通商代表部(USTR)と密接に連携しており、その意見書は米国政府の対日要求といえる。
14年の同会議所による意見書「JAグループは、日本の農業を強化し、かつ日本の経済成長に資する形で組織改革を行うべき」が、規制改革会議と連動して農協改革法案を推進するものとなったことは記憶に新しい。
今回の意見書においても、「農協法の改正案の可決を歓迎し、1954年に農協法が制定されて以降、安倍政権が初めて大規模な農協の改革を実行したことを高く評価している。この改革は、有意義な構造改革の達成に向け、大きく前進したことを示している」と農協改革を絶賛し、自らの影響力を誇示している。
このように、安倍内閣に圧倒的影響力を持っている同会議所による今回の意見書の注目すべき点は、前回のそれがJA共済を含む農協改革を求めたのに対して、今回はJA共済に限らず、全労済、コープ共済、県民共済、都民共済、中小企業共済すべてについて、保険業法下で金融庁監督下の保険会社と同一の監督下に置くことを要求するとともに、保険会社との平等な競争条件が確立されるまでは、共済の事業拡大及び新市場への参入は許さるべきでないと主張していることである。JA共済から共済全体に狙いを広げたのである。
このような要求は、米国外資系保険会社の要求に基づくものである。彼らにとっては、個人保険分野(年金保険を除く)において約30%のシェアを占めている各種共済が、生命保険契約者保護機構への資金拠出や民間保険会社と同等水準の責任準備金等の積立を求められていないこと、金融庁の監督・検査・モニタリングを受けず金融庁への定期的な報告を行っていないことについて優遇措置と受け止めているのである。そして、共済を金融庁の監督下に置き、同等の競争条件の下で共済の市場に参入しようとしているのである。
サービス貿易上の問題
さらに重大なことは、日本政府による共済の取り扱いが、サービス貿易上の問題であるとしていることである。意見書では次のように述べている。
「日本政府は世界貿易機関(WTO)の『サービスの貿易に関する一般協定(GATS)』の下で保険・保険関連サービスを含む金融サービスに関して具体的な合意事項をいくつか採択した。これらの合意事項は共済等を例外とすることを認めていないにもかかわらず、政府はGATS上の日本の義務に反し共済等に対して競争上の優遇措置を取り続け、金融庁監督下の外資系保険会社に不利な待遇を与える結果となっている。政府はGATS上の日本の責務に従い、共済等を金融庁監督下の外資系保険会社と同じ監督下に置く義務がある」
「共済等への優遇措置は政府が日本の金融・資本市場の健全な育成を促進する能力を損ない、金融改革の下でこれまでに達成した成果を脅かすこととなる。さらにはGATS上の日本の国際通商上の義務に関する問題を提起している」
以上より、「共済等への優遇措置」が国際通商上の義務に関する問題であると警告しているのである。
こうした指摘は、米国政府が共済問題を国際的にTPP(環太平洋経済連携協定)やWTOで紛争案件として取り上げ、圧力をかけていこうという狙いであることは明らかである。TPPにおいても、金融サービスが章として立てられており、そこでは「自国の投資家に与える待遇よりも不利でない待遇を与える」ことを明記しており、紛争処理規程も盛り込まれている。日本で経営している米国系外資保険会社が、共済より不利な待遇であるとして、米国政府が訴えることは十分考えられるのである。
さらに現在、新サービス貿易協定(TiSA:Trade in Services Agreement)交渉が行われている。これは、現行のWTOのサービス貿易に関する一般協定(GATS)以上の自由化を進めるために「21世紀にふさわしい先進的な新協定」の策定を目指すとしている。このTiSAの交渉で、米国政府が日本政府に対して同会議所の意見書と同様な要求を求めていることを外務省が認めている。
いずれにせよ、全共済が米国政府によりTPPやTiSAの舞台で問題にされ、国際的な圧力にさらされることになる。その背後に、米国多国籍保険会社が暗躍していることはいうまでもない。
(文=小倉正行/フリーライター)