「これが総会屋の真実だ」』(ぴいぷる社)
ことの発端となったのは、3万株以上を保有している1人の個人株主の提案なのだが、それがどのようなものかというと、唖然とさせられる内容なのだ。直接の社名変更案(野村HD→野菜ホールディングス)は議案から除外されたが、第3号議案で「日本国内における略称は『YHD』と表記し、『ワイエイチデイ』と呼称する。営業マンは初対面の人に自己紹介する際には『野菜、ヘルシー、ダイエットと覚えて下さい』と前置きする」とした。
第12号議案は、「オフイス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価4ケタ(1000円)を目指して日々ふんばる旨定款に明記するものとする」。なお、第11号議案は「東京電力、関西電力に対する融資、投資を禁じる旨を定款に明記する」となっている。
株主の素姓や背景は不明だが、兜町の情報通は「これは新手の総会屋の手口」と見ている。総会屋が売り出すために使う手口。手ごわい相手と認識させるパフォーマンスというのだ。
総会屋という呼称は、法律用語でも経済用語でもない。古くから使われている通俗語である。「株主総会に関連して活動し、企業から不正な利益を得ている者」と定義されている。企業の総務担当者は特殊株主と呼んでいる。全盛期に6800人を数えた総会屋は、事件の摘発や商法の改正で、メシが食えなくなり、現在では全国で300人が確認されているのみだ。
近年、大物総会屋が相次いで死亡した。「最後の総会屋」と称された小川薫氏は09年に死去。小峰伍郎の名前で150人を擁する総会屋グループ「小峰グループ」を率いてきた小泉幸雄氏も昨年7月、ガンで亡くなった。葬儀には、多くの企業の総務関係者やアングラ人脈の人々が参列したという。
一時は、絶滅危惧種とみられていた総会屋だが、ここへきて息を吹き返してきたのは、不祥事が頻発し、大赤字を抱える企業が少なくないからだ。
野村の株主提案は一定の要件を満たしたものだから招集通知に記載しなければならないが、一つひとつに反対意見を述べている野村HDの経営陣の”良識”にも疑問符がつく。
どういうことかというと、12年3月期、経営陣の1人当たりの平均報酬が前年より8割多い1億6000万円となった。これは招集通知に書いてある。業務上の責任者である執行役6人に支払った報酬の合計が9億6500万円(1人平均1億6083万円)。前年同期は10人で8億9900万円(同8990万円)だった。12年3月期は大幅減益。米国の格付け会社から「投資適格」の中で、最も低い段階まで格下げさている。それなのに経営陣の報酬はお手盛りで大幅に増えた。