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パナソニックとソニーは眼中にない

アップル元社員「ジョブズは他人の成果を自分のものに…」

構成=國貞文隆
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アップル元社員「ジョブズは他人の成果を自分のものに…」の画像1アップル元CEOのスティーブ・ジョブズ。
(「ウィキペディア」より)
「デザインを先に考え、そこからまったく妥協しないで製品化していく」
「ジョブズは“嫌なヤツ”です」

 数々のヒット商品を生み出してきたアップル、そして創業者の故スティーブ・ジョブズを、神様のように畏敬の念をもって崇める人々は多い。しかし、その等身大の姿は、今もって明かされていない部分も多い。

「アップル強さの秘密はなんなのか?」 
「世界市場における地位低下が叫ばれる日本メーカーとの、根本的な違いはなんなのか?」

そして、

「ジョブズ亡き後の、アップルの懸念材料とは?」

 前回(http://biz-journal.jp/2012/07/post_416.html)に引き続き、4月に発売された『僕がアップルで学んだこと』(アスキー新書)(http://www.amazon.co.jp/dp/4048865390)の著者で、元アップル米国本社シニアマネージャーの松井博氏に話を聞いた。

――製品のクリエイティブ面では、やはりジョブズのトップダウンが大きかったのでしょうか?

松井 そこは本当にそうなのか? と思うところもあります。スティーブは誰かが良いことを言うと、全部自分のものとしてしまう人でしたから。数々の伝説のいくつかは、眉唾なのではないかと思うものもあります。彼が「こういう方向に行こうよ」と考えたときには、必ずそれを実現してくれるジョナサン・アイブ(デザイナー)が傍らにいた。ジョナサンが率いるデザイナー・チームは、あちこちで賞を取っているような名だたるデザイナーを世界中から集め、どの会社でもよだれが出るほど欲しい人材が、ごっそりそこで働いていました。彼らの仕事場はパーテーションで仕切られたオフィスや個室ではなく、だだっ広い学校の教室みたいところでした。そこで試作品をつくっては、皆で批評し合うというカルチャー。もともと優れているから、それだけすごいデザインのものが出来上がるわけです。ただ、彼らはエンジニアではないから、実現性を度外視したものが出来上がる。「これ、無理だろ」みたいな。例えば、MacBook Airは異常に薄いでしょ? しかも全部金属で、内蔵アンテナも入っています。しかし、アンテナを金属で覆えば、電波は入りにくくなる。放熱にしても、金属は熱伝導が高いから、使っているとすぐに熱くなってしまう。プラスチックを使えばぜんぜん楽なのですが、そうしない。最初に全部金属だと決めてしまうんです。しかも排熱の穴はほとんどない。結局、モニタのヒンジの部分から熱を逃がしているわけですが、そうした仕組みをどうにか考えなければならない。普通ならファンをつけて熱を出せばいいのですが、それをやらせてもらえない。どうにかして最初のデザインのまま、製品化するのです。

――つまり、ユーザーに受け入れられるデザインを決めて、そこからブレないわけですね。

松井 そうです。エンジニアがつくりやすいものではなくて、お客さんが使いやすいもの。そうしたデザインを先に考える。そこからまったく妥協しないで製品化していく。そこが強いところですね。かつて私が日本のメーカーに勤めていた時には、「強度がない場合はネジを増やそう」という話がすぐに出てくるわけです。しかし、ネジを増やすとカッコ悪くなる。しかも集密度が高い基板の中にネジ穴をつくるだけでも、すごく大変なんです。ネジなんかないほうがいいに決まっている。ネジを使うというのは、実は安直な解決方法なのです。ネジのいらないボディをつくることは、すごく正しい。ただ、正しいけど前例がないから、つくるのは大変です。正しいとは思っても、なかなかできない。アップルは先に決めてしまうのです。だから、やらなきゃいけない。日本企業だと、できないからネジを使って、最初のコンセプトからズレてしまう。自動車メーカーがよく自動車ショーで格好いいコンセプトカーを展示していますよね。でも、何年後かに商品化されると、かつてのコンセプトカーとはまったく別物になっている。アップルは最初のコンセプトに忠実につくる。「コンセプトカーと商品は別物」という会社ではないんです。

ジョブズの考えは必ず実現

――なぜ日本企業は、それができないんでしょうか?

松井 日本はサラリーマン社長だからだと思います。怖くて、そんな大きなリスクを取れないのです。「これで失敗したら、何と非難されるのか?」を先に考えてしまう。創業社長は、そこが強いと思います。アップルは、スティーブの考えたことを必ず実現させるという意識が、下のほうまで浸透している。100名超いた僕の部署でも、実績が上がればいい転職もできるから、何がなんでも実績を出したい。マネージャーも皆そう思っていますから、少々のリスクは厭わない。上から下までそんな感じです。一方で、失敗に寛容なところもあります。「コケても、次でなんとかすればいい」という空気です。会社だって、よほど悲惨な失敗をしない限り、辞めさせられることはなかなかありませんから。

――アップルは、人材マネジメントという面で、何か意識して工夫している点はあるのでしょうか?

松井 社員一人ひとりに、「競争させる」「責任を負わせる」「タスクを定義して、やることを決める」ということです。いわば、自分で仕事にコミットさせて、きちんと責任を取らせる。順当に実績を積んでいけば、次のステップで「自分はこうやりたい」と言えば、その希望はかないます。ヒラ社員でもチャレンジをうまくこなしていくことで、だんだんと上に行ける。できるヤツとできないヤツとでは、給与の差もすさまじい。例えば、ボーナスの原資は各部署で決まっているわけですから、皆に均等に分けるのではなく、できるヤツにドンと渡す。良い仕事をしていれば、たくさんもらえるし、パッとしないと常にボーナスはもらえない。昇給も予算枠があるので、できるヤツは上がるし、ダメな人はずっとダメ。会社に入ってしまえば、大卒、高卒も関係なく、実績のみで評価されるという世界です。

――なぜアップルには優秀な人材が集まるのでしょうか?

松井 それは面白いことをやらせてくれるからでしょう。例えば、物流の専門家だとすれば、アップルのヒット商品ともなれば、何千万台、何億台と売っているわけです。それだけのモノを動かすことは、物流をやっている人たちにとっても、それこそ一生で何度も出会える仕事ではありません。アップルには、そうしたスケールの大きな仕事が普通にある。やってみたいと思う人は来ますよね。

――ジョブズ亡き後、アップルの懸念材料とは何でしょうか?

松井 やはり社内政治でしょうね。現CEOのティム・クックが社内カルチャーを変えていくかもしれませんが、スティーブ自身は良くも悪くも政治的な人でした。そうした政治的な要素が下まで浸透しているので、それが今後、吉と出るか凶と出るか、まさに両刃の剣といえるでしょう。また、前述のジョナサン・アイブがもし辞めたらどうなるだろう、ということも考えますね。アップルには2種類の天才がいるんですが、1種類目の天才はスティーブ・ジョブズやジョナサン・アイブといった、何かとんでもないことを考えつくヤツら。そしてもう1種類の天才が、それを製品化できるヤツらなんです。後者は表舞台にこそ出てきませんが、あり得ないくらいすごい人たちなんです。どちらが欠けてもダメなんですが、魅力ある商品をつくって世の中に出すという力は、今も衰えていない。しかし、ジョナサンはジョブズのいいパートナーだったので、ジョブズ亡き今、何かしらの変化が起こり得るのかなという気もします。あのふたりはいつも一緒に飯を食べていましたから。クリエイティブを起こすパワーは、少し減少するのかなという懸念を感じます。ティム・クックはプロフェッショナルな働き者です。怒ったりもしないし、感情を表に決して出さない。ただ、いい加減なことを言っていると、泣くまでそいつを追い詰めるタイプですね。ジョブズは、伝記にある通り、ある意味では“嫌なヤツ”です。

ソニーやパナソニックは眼中にない

――アップルにとって、ソニーやパナソニックなどの日本メーカーはどう映っていますか?

松井 昔はアップルのほうが「追いつき追い越せ」でしたが、今はもう眼中に入っていません。かつて私も、日本メーカーの携帯電話やミュージックプレイヤーを片っ端から買って、本社に持って帰って分解していました。その数も100や200では収まらない。そうやって得た情報を社内に出せば、上から下まで技術オタクばかりですから、すぐに食いついてくるわけです。しかし、iPhoneを出した頃からは、ライバルから「一部品メーカー」になったという感じです。部品メーカーとして納期は必ず守るし、品質も高いし、コミットしたことは必ず守るから、頼りになる存在ではあります。しかしライバルではない。今は、競合商品を分析することもしなくなったと思います。

――今後、日本メーカーはどうすれば復活できるとお考えですか?

松井 もっと簡単な仕事を、きちんとやればいいと考えています。例えば、ソニーは、米国の量販店を覗くと、日本でまったく流通していない商品が売られている。ヨーロッパでも同じ。一体ソニーは全世界で何種類の製品つくっているのか、ウェブサイトで数を数えたことがありますが、途中で挫折してしまった。なぜなら、日本だけで180くらいあり、それが欧米やアジアといった地域ごとでも分かれていて、数えきれなかったからです。これは、人的/資金的リソースを無駄遣いしているということなのです。アップルだけではなく、成功している海外の会社は、アマゾンでもエクソン・モービルでも、世界で同じ商品・サービスを提供しているわけです。

――日本企業も、世界共通のビジネスを展開すべきだということでしょうか?

松井 そうです。日本の会社は地域によって、ビジネスの仕方を変え過ぎです。アップルは「どこの国でも売れる製品をひとつつくろう」と思ってやっています。日本企業は地域ごとに違う製品をつくっている。だからスケールメリットが出にくい。ひとつの製品が50万台売れるほうが原価率もぐんと下げられるし、工場のラインも一本で済む。それには多様な視点を持った人材が必要です。日本企業は、社内教育で一種類の視点しか持ち得ない人間をつくってしまいがちです。先輩のやったことを踏襲すればいい。そうしたメンタリティでいると、革新的なものはできなくなるのではないでしょうか。冒険したい人間がいると、社内で異端児扱いされる。これからは、企業の中にもっと多様な視点を持った人材を確保することが必要だと思います。
(構成=國貞文隆)

<目次>
【1】広告費ゼロで会員5万人?ソーシャルランチ人気の秘密(http://biz-journal.jp/2012/07/post_419.html
【2】もしグーグルが日本で起業していたら成功したか?(http://biz-journal.jp/2012/07/post_417.html
【3】アップル元社員語る「過酷な社内政治とクレイジーな要求」(http://biz-journal.jp/2012/07/post_416.html
【4】なぜ“汎用技術”iPodがヒット?にみるベンチャー成功の秘訣(http://biz-journal.jp/2012/07/post_434.html

松井博:1966年生まれ。神奈川県出身。地元の高校を卒業後、渡米。オハイオ・ウェズリアン大学卒業。沖電気工業株式会社、アップルジャパン株式会社を経て、02年に米国アップル本社の開発本部に移籍。iPodやマッキントッシュなどのハードウエア製品の品質保証部のシニアマネージャーとして勤務。09年に同社退職。現在、カリフォルニア州クパティーノ市内にて保育園「つくしデイケア」を経営。

國貞文隆

國貞文隆

1971年生まれ。学習院大学経済学部卒業後、東洋経済新報社記者を経て、コンデナスト・ジャパンへ。『GQ』の編集者としてビジネス・政治記事等を担当300人以上の経営者を取材した経験がある。。明治、大正、昭和の実業家や企業の歴史にも詳しい。主な著書は『慶應の人脈力』『やはり、肉好きな男は出世する ニッポンの社長生態学』『社長の勉強法』『カリスマ社長の大失敗』など。

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