アニキのお金で起業したアプリ会社の落とし穴
ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニーなどの複数の外資系金融機関やコンサルティング会社を経て、ライブドア時代にはあのニッポン放送買収を担当し、ライブドア証券副社長に就任。現在は、経営共創基盤(IGPI)で多くのITベンチャー企業のスタートアップ、事業開発、M&Aアドバイザリーに従事するのが、塩野誠氏である。そんな塩野氏が、あまり知られていないベンチャー起業の現実や、リアルな資本政策について解説する。
世の中には膨大な数の「事業計画のつくり方」や「資金調達の方法」といった本が溢れています。ちょっと書店に行けば、ビジネスプランについて語られたMBA本が平積みにされているのを見ることでしょう。ネット上でも懇切丁寧な「事業計画で気をつけること」といった内容もすぐに検索することができる便利な世の中です。これだけの情報がすぐにアクセス可能な状態にあっても、不思議なことに起業家の大多数が、毎回同じような「やっちゃったね」な資本政策(=お金の集め方)によって失敗していきます。
これは、特に上から目線にならなくても、少しでもベンチャーの資本政策の経験があるプロから見ると、「いつもの黄金パターン」に見えるものです。
低コストでアプリを開発できる時代
例えば、「アプリ起業」の例を考えてみましょう。近年では、クラウドコンピューティングの発達と、FacebookやTwitterのような有力サービス・プラットフォームのAPIを利用することによって、ユーザの各種データに容易にアクセスができるようになり、短期間で容易にアプリを開発できるようになってきました。アイディアとちょっとしたプログラミングの腕さえあれば、Facebookやクラウドから環境を借りて、低コストでアプリを開発することができるようになったのです。
開発したアプリを一般に公開し、人気が出てくれば、「これはビジネスになるかもしれない!」と鼻息も荒くなることでしょうし、普通の人でもアイディアを思いついて、「こんなアプリをつくったら大ブームかも!」と、どこかで会ったアプリ開発者にFacebookで友達申請をすることもあるでしょう。
この手軽さから、「アイディア→アプリ開発で起業」といった人たちが増えてきました。そして、ベンチャー業界に馴染みのない方は不思議に思われるかもしれませんが、現状では「アニキ」と呼ばれる個人投資家やベンチャーキャピタルが、数百万円のベンチャー投資なら手軽に行うようになっています。
アニキ・ファイナンス
この「アニキ」は、ベンチャー業界のご意見番として著名な本荘修二氏が、「大学や会社の先輩、あるいは先輩格の起業家やベンチャー界のちょっと知られた人」と定義し、「起業しなよ、カネ出すから頑張れよ」とアニキがお金を出してくれる現象のことを、同氏は「アニキ・ファイナンス」と呼んでいます。
2012年の日本においては、
「アイディア→アプリ開発→ちょっと人気→起業→200万円調達!」
といった流れが、わりと普通にできているのです。これが10年以上前ですと
「ホームページ制作できます→インターネットビジネスで世界を変えます→2億円調達!→開発とプロモーションですぐに使ってしまいました」
でしたので、かなり低コストで起業できるようになったといえます。
資金ショートの典型的なパターン