ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 起業したアプリ会社の落とし穴  > 2ページ目
NEW
IGPIパートナー塩野誠「The Critical Success Factors Vol.1」

アニキのお金で起業したアプリ会社の落とし穴

文=塩野誠
【この記事のキーワード】

 問題は、こうしてうっかり起業してしまった場合に、大多数のアプリのベンチャーにとって、数百万円の資金調達の次の、数千万円や数億円の資金調達が難しいところです。数百万円をもらって投資家に結構な割合の株式を渡してしまったり、数百万円の次の資金調達では異常に強気な交渉に出て、気がつくと会社にはお金がなかったりというのが、典型的な「やっちゃったね」なパターンといえます。これでは優しかったアニキの顔も曇ってきます。

 アプリ開発のできる大学生がバイトの代わりにアプリをつくっているなら良いのですが、勤めていた会社も辞めて、凡庸なアイディアで起業した場合は、お金が続かなくなると困ってしまいます。というか生活の存続に支障を来たします。今は数百万円のスタートアップ資金ならどうにか調達できてしまうので、「業界の有名人に認められちゃってさ」や「お金も集まって、ウチらイケてるかも」となりやすい環境にあります。でも数百万円なので、実はオフィスも借りてはいけません。熱い野望を胸に秘め、実家にとどまるべきです。そうでなければ、すぐに資金繰りが詰まってしまいます。

 私は個人的には、何にせよ日本に起業家の数が爆速で増加してほしいと思っていますし、日本の将来的な成長領域になるような企業が生まれるためには、起業した会社の生存率が一定ならば、起業の数を増やすしかないと思っています。そのため、起業しやすい環境は我が国にとって、経済産業省も一押しの必要な事象です。

会社を潰したって、人生は終わらない

 ここで問題なのは、起業家の「期待値」です。サクッと起業したのだから、もしそのビジネスモデルが回らないのであれば、すべてのお金がなくなる前にそのビジネスから撤退すべきですし、おしゃれな言葉で言えば「ピボット」すべきです。世の中にまだないような新しいビジネスがうまく立ち上がることは原宿でスカウトされるくらいほとんどないので、成功の期待値も低いわけですし、会社を辞めて起業して、うまくいかなくなった時に起業家は「思っていたのと違う」とベンチャーキャピタルやアニキたちを恨んではいけません。

 そこは自己責任ですし、人生終わりませんし、死にもしません。経営者であれば取締役としての義務を全うし、株主や取引先に誠意を尽くし、きれいに手仕舞いしましょう。エンディングでモメると、再起が難しい人になります。

 ベンチャーは海賊みたいな船乗りたちが仲間を集めて航海に出て、お宝を手に入れたら仲間で山分けが本質です。運悪く自分の船が嵐に遭って沈没してしまったら、レンタルオフィスやコーワーキングスペースの隣の船に合流して、ゲームを続けましょう。

塩野誠

塩野誠

経営共創基盤 パートナー/マネージングディレクター

ゴールドマン・サックス証券を経て、評価サイト会社を起業、戦略系コンサルティング会社のベイン&カンパニーを経た後、ライブドアにてベンチャーキャピタル業務・M&Aを担当し、ライブドア証券取締役副社長に就任。現在は経営共創基盤(IGPI)にて大企業からスタートアップまで、テクノロジーセクターの事業開発、M&Aアドバイザリーに従事。著書に『プロ脳のつくり方』(ダイヤモンド社)、『リアルスタートアップ』(集英社)がある。慶応義塾大学法学部卒、ワシントン大学ロースクール法学修士。

アニキのお金で起業したアプリ会社の落とし穴のページです。ビジネスジャーナルは、企業、の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!