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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ! 【第2夜】

100円ショップ・タイガー社長「日本人の雑貨好きは異常」

post_834.jpg確かに色合いとかに惹かれてついつい買っちゃう。
(「ガイアの夜明けHP」より)
――『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:10月2日放送『ガイアの夜明け』(テーマ:”雑貨”ブームがニッポンを変える・・・)

 デンマーク人の社長は目を丸くしていた。

 ヨーロッパの雑貨店「タイガー」が日本初となる大阪で開店したが、あまりの人気に商品が追いつかず、一時休業を余儀なくされたからだ。彼は「ヨーロッパではこんなことはありえないよ」と語る。一カ月後の再オープンも整理券が配られるほどの大混雑。若い女性が必死な形相で雑貨を探す。1万円以上の買い物をする人もいた。

 が、そんな人は珍しくもないんだろう。日本では今、雑貨ブームだから。その兆候は、雑貨に疎い僕でも分かる。新しい店舗ビルがオープンすれば雑貨店は必ずあるし、ショッピングモールに行けば「あら、また店舗が増えている」と驚かされる。番組内では渋谷にオープンした「ヒカリエ」も紹介されていたが、全店舗の1/3で雑貨を扱っているらしい。これではもはや雑貨ビルではないか。

 タイガーの社長、クラウス・ファルシングさんは「日本人はなぜこんなに雑貨を買うのか。信じられない」と言っていた。僕も同じような意見を外国人の友人から聞いたことがある。「雑貨は長く使い物であって大量に買うこと自体がありえない。気に入ったものなら尚更だ。一回の買い物でカゴに詰め込む程買うのはおかしい」と。彼が今回の『ガイアの夜明け』を見たらどんな感想を持つだろうか。きっと呆れるか、クラウスさんのように目を丸くするだろう。その答えとして一人の雑貨好きの女性が紹介されていた。

 所沢に住む竹田さん(33歳、仮名)の家はまるでモデルハウスみたいだった。例えば「北欧のオシャレな家具で暮らしたい」等と表紙に書かれた雑誌のような。かわいらしいアクセサリーが並び、ポスターも額に入れられて整頓されている。映画監督として気になったのは(わずか数秒しか映らず、またフレームのほんの端しか映っていなかったが)、ベン・アフレック監督の『ザ・タウン』、アカデミー賞受賞作『ハートロッカー』、公開中の新作『ボーンレガシー』の、いずれも本国のポスターが並んでいたこと。ただの映画ファンではないな、と思った。もしかしたらマスコミ関係の人かもしれない。『タイタニック』や『レオン』のポスターが並んでいたらがっかりだが、通好みの新作を並べていることに好感を持った。

 彼女の鑑識眼は、クッションカバーを見つける際のコメントに現れていた。

「いろいろなモノがある中で一つだけ自分に合うものがパッと見つかる。それが凄い好き」と。

 彼女にとって雑貨とは一期一会の出会いなんだろう。その気持ちは僕も分かる。映画のDVDが安く売られていると「僕が買わなければ誰が買うのか」と思い、見たくもないのにスティーブン・セガールの『沈黙のなんとか』が増える。欲しい、欲しくないの次元ではない。「ほかにいないから」買うのだ。否、保護だ。

 興味のない人にとっては病気に見えるかもしれないが、「自分しか」とかいう意識でモノを買う人は確かにいる。ユニクロより安い服で十分に満足をし、好きな雑貨に囲まれて暮らすことを「自分の中で完結できる」と語る。そんな彼女を、デンマーク人の社長は理解出来るだろうか。出来ないだろうな。きっと日本人のコレクター気質にピタッ! とハマったのが現在の雑貨ブームなんだろう。

 その一方でいらなくなった雑貨はどうなるのかな、と思う。モノが増えるということは、広い部屋に越さない限り置き場所がなくなるはずだ。誰かにあげるのだろうか、それとも捨てるのか。毎日とは言わなくても毎週買っていたらどうなるのだろうか。僕はDVDやVHSが増える度に後輩にあげるか、売ってしまう。捨てることは生理的に出来ない。そういえば本もダメだ。一冊50円にもならない本を、汗を流してブックオフに大量の本を運び、段ボール一箱に「800円です」という値が付けられても後悔はない(寂しいけど)。なぜなら僕には「作品を捨てる」という選択肢がないからだ。

 竹田さん(仮)は「雑貨は服と違って流行がない」と言っていたが、現在は間違いなく雑貨ブームだ。事実、ヒカリエの例だけでなく世の中が雑貨で溢れている。ビックカメラとユニクロは「ビッコロ」なんていうがっかりな名称のビルを建てた。中に入るとそこは家電でも服屋でもなく激安ディスカウントショップに似た「懐かしい」店だった。「なんかドン・キやヴィレバンっぽいな」と思った。ゴチャゴチャすればするほど、見た目も中身も安くなるという当たり前のことに気が付いたが、この「雑貨っぽさ」は今後より必要とされるだろう。

 家電も服も住宅も区分けを必要としないのが今の日本なのかもしれない。それは外国人には分からない感覚だろうな。しかし、クラウス社長はあまりの混雑に対する困惑のコメントの後に「エキサイティングだけど」というコメントを付け加えていた。そこに今後、雑貨ブームがまだまだ展開される予兆を感じた。
(松江哲明/映画監督)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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