三菱UFJのジレンマ、国際的信用力アップは経営の足かせ?
G-SIFIsに選ばれた銀行は、バーゼル3(段階的に狭義の中核自己資本比率を7%まで引き上げる措置)に加え、2016年から1~2.5%の資本の上乗せを求められる。邦銀では、3メガバンクがこのG-SIFIsに選ばれているが、今回の見直しで、三菱UFJフィナンシャル・グループが1.5%の上乗せとなった一方、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループは1%の上乗せで据え置かれた。なお、1.5%の上乗せグループには、三菱UFJのほか、バンク・オブ・アメリカ、クレディ・スイス、ゴールドマン・サックスなど8社が並ぶ。
米国の銀行子会社であるユニオン・バンクを通じて地元の破綻地銀を買収するなど、三菱UFJグループの国際的な重要度が高まっていることの反映であるが、上乗せ幅が拡大したことで、今後、資本の制約面から、三菱UFJグループの買収戦略に足かせがかかることは避けられない。国際的な存在感が高まった三菱UFJの有名税のようなものと言えるが、経営上は痛し痒しの要因となる。
バーゼル銀行監督委員会による新しい自己資本比率規制「バーゼル3」が承認されたのは、10年11月のソウル・サミット。国際的に展開する銀行の自己資本について「質と量」の充実が求められることになった。具体的には普通株と剰余金を「狭義の中核自己資本」(Tier1)と位置付け、その最低比率を2013年から19年にかけて段階的に引き上げなければならない。貸出金などの資産に対して、最低比率を実質的に7%以上確保することが義務付けられた。
●資本の上乗せを求められるメガバンク
さらに、バーゼル3の対象行の中にあって、「グローバルに活動し、(金融)システム上重要な金融機関」(G-SIFIs)については、資本の上乗せが求められた。日本の3メガバンクは、いずれもナショナルフラッグの銀行として、このG-SIFIsに指定された経緯がある。また、G-SIFIsに指定された銀行は、事前に自行の破綻処理計画の作成が義務付けられている。
一方、バーゼル銀行監督委員会は今年6月に、「D-SIFIs」と呼ばれる「国内のシステム上重要な銀行の取扱に関する枠組み」を公表した。「Dとはドメスティック(国内的に)、SIFIsとは金融システム上重要な銀行という意味です。BIS(正式名:Bank for International Settlements)がその規制内容について協議文書を出したのですが、金融界ではこの『D-SIFIs』にどこが選ばれるのか話題を集めています」と、メガバンクの調査部門員は語る。
●D-SIFIs候補銀行たちの本音
一般的に「国内的に重要な銀行」に選ばれることは、それだけで名誉あることのように思えるのだが、ことはそう単純ではない。最大の問題は、D-SIFIsに選ばれると、G-SIFIsと同様に自己資本の上乗せ規制をかけられる可能性があること。「金融システム上重要な銀行だけに倒れては困る、そのために自己資本を普通の銀行よりも厚く積みなさいというわけです。資本の積み増しを嫌って貸出を絞るところも出るかもしれません」(先の調査部門員)。このため、できれば選ばれたくないと思っている国内の大手銀行もあるようだ。
金融庁関係者によれば、「D-SIFIsにはゆうちょ銀行、りそなホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、横浜銀行などの上位地銀が候補となる」と見られている。
バーゼル銀行監督委員会は、国際的に展開する銀行の自己資本比率の規制を行ってき
た。80年代の邦銀のオーバープレゼンスを封じ込めるために、欧米が中心となって導入したと言われる悪名高き「BIS規制」である。そのBIS規制に金融危機に瀕している欧米の銀行が苦しめられ、規制をクリアするため資産の売却を余儀なくされていることは皮肉でもある。
なお、今回のG-SIFIsの見直しでは、仏・ベルギー系のデクシア、英ロイズ・バンキング・グループ、独コメルツ銀行の3行がリストから外れた。一方、昨年のリストにはなかった英スタンダードチャータード、スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行が加わり、総数は28行となった。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)