(ソフトバンク新書/佐藤留美)
今回、佐藤氏に、
「勝ち組になるはずだった若者たちは、どうして負け組になってしまったのか?」
「幸せな仕事人生を送るために“本当に”必要な仕事術」
について聞いた。
ーー今回、『なぜ、勉強しても〜』を書かれたきっかけについて、教えていただけますでしょうか?
佐藤留美氏(以下、佐藤) 私はこれまでに、一生懸命スキルアップに励んでいる、いわゆる「スキルアップ族」と呼ばれる30歳前後の人をたくさん取材してきました。しかし、彼らを見ていると、キャリアアップするどころか、キャリアダウンの転職を繰り返している人が多い。一方で、転職せず、新卒で入社した会社でずっと働き続けている人は意外と元気です。「この差は、どこからきているのだろうか?」と思ったのがきっかけでした。
私自身、1990年代後半から00年代前半まで、キャリア系情報誌で、「転職を通じていかにスキルアップするかが重要で、それなくして勝ち組になれない」という記事をたくさん書いていました。それに、スキルアップは前向きな行動ですから、当然すべきものであり、ためらっている人の背中を押すような記事を書くことに、当時は疑問を持つということはありませんでした。
でも、最近そういうスキルアップ族の元気のなさを見て、「何か違うぞ、もしかしたらミスリードしてしまったのではないか?」と思い、あらためて調べてみることにしたわけです。
ーー調べてみて、いかがでしたか?
佐藤 例えば、東日本大震災後であれば、人々は何かにつけて“絆”という言葉を口にしますよね。それから、小泉純一郎政権時代は“自己責任”ですか。そういう“時代のノリ”というのは、いつの時代にもあります。スキルアップ族は、当時の“ノリ”に乗せられてしまった人が多かったのではないかと思います。自分たちの未来のためにと、本業を忘れて、資格取得やTOEICに心血を注いでいる人は至るところにいましたね。
ーー具体的に、スキルアップに振り回されてしまった人が陥る失敗とは、どのようなものですか?
佐藤 現在30歳前後の人たちが、新卒の就職活動を行っていた時代は、まだ就職氷河期でした。ですから、第一志望ではなく、不本意な会社に就職した人が多いのではないでしょうか。一方で、大量採用している企業もあって、そこに入った同期を見ていると、まぶしく見えて、うらやましくて仕方がなかったと思います。
そこで、自分もこのままではダメだと、一念発起して、スキルアップ族の仲間入りをするわけです。スキルアップにはお金もかかりますが、時間も相当割かなければなりません。そうすると、残業を断ったりして、上司との間に冷たい隙間風が吹き込んでくるわけですよ。でも、社外にいる同じようなスキルアップ族とはつながりができ、SNSなどを通した交流が深まります。