バイアグラを部下に買わせ、愛人の指南で合併を決める大手新聞社長の性癖
香也子の独り笑みを見て、松野はまた抱き寄せた。すると、香也子が耳元で囁いた。
「パパが部屋に来た後のことは覚えているの。私、“狆爺さん”たちにむしゃくしゃしていたし、暗い顔つきだったパパを慰めてあげようという気持ちもあったわ。でも、私がパパを呼んだっていう記憶はないの。信じて……」
「わかっているよ」
寄り添った香也子の顎に手をあて、松野は口づけした。
「そろそろベッドルームに行こうよ」
松野は香也子のセーターをたくし上げようとした。
「待って」
香也子は自分でカシミヤのセーターを脱いだ。
「パパは10年前と同じようにしてほしいの?」
「そんなことは思っていないけど、君を見たいだけだよ」
「ここ1〜2年はいつも見て、触るだけじゃない? 今日は違うの?」
「今日は違う」
「10年前と同じ?」
10年前、松野は60歳、その日、愛人になった香也子は35歳だった。今、45歳になった香也子は“女盛り”だった。
「ちゃんとするよ」
「あまり信用できないけど、わかったわ。シャワー浴びてくる。パパはどうするの?」
「僕はベッドで待っているよ」
「じゃあ、バスローブを持ってきてあげるわ」
香也子は立ち上がると、ベッドルームを通り抜けて、バスルームに向かった。そして、バスローブを持って戻ってきた。リビングのソファーに身を埋めていた松野に渡した。
「これに着替えて待っていて。パパはシャワー浴びるの?」
「いや、いいや。シャワーはいい」
「10年前もそうだったわね」
香也子は意味深な笑みを浮かべ、ブラウスのボタンを外しながらバスルームに戻った。
松野は、受け取ったバスローブを脇に置き、テーブルの手を伸ばし、サンドイッチを摘んだ。「美松」でよせ鍋は食べたが、食事は取らずに先に出たので、小腹が空いてきたのだ。2つほど摘むと、少し気の抜けた、グラスに残ったドンぺリを飲み干した。
「よし」
松野は自分を元気づけるように立ち上がった。バスローブを持ってリビングの中央の寝椅子まで行き、ワイシャツと背広のズボン、靴下を脱いだ。下着の上からバスローブを着ると、ベッドルームの窓側のベッドに腰を下ろした。
「もう11時少し前か」
腕時計を外し、ツインベッドの間にあるスタンド台に置き、リビング側の壁にある液晶テレビをつけた。民放のニュースが始まるところで、ぼんやり見つめていると、バスローブ姿の香也子が出てきた。