バイアグラを部下に買わせ、愛人の指南で合併を決める大手新聞社長の性癖
「香也ちゃん、そんなこと、言わないでよ」
松野は背中から香也子を抱き起こそうとした。すると、香也子は毛布を抱きかかえたまま、起き上がり、目元を綻ばせ白い歯を見せた。
「もう、よしましょ、こんな話。それより、日亜との合併の話、どうなったの? パパ、その話があるからって、私を呼んだんじゃない?」
「その話はする。でも、その前に……」
後ろから毛布の中に手を入れ、乳房を掴んだ。香也子は首を後ろに向け、唇を差し出した。
「これでおしまいよ。話してちょうだい」
松野は日亜社長の村尾と合併交渉を始めて以来、香也子に部数動向、不動産の保有状況など、交渉に必要なデータを集めさせていた。
「わかったよ」
松野は立ち上がり、リビングに行った。ビジネスバッグから「ポロ・ブラック」を取り、首の周りにつけた。そして、新しいワイシャツを着て、寝椅子の上に無造作に脱いであった背広のズボンをはいた。寝室に戻ると、香也子は毛布を胸に抱えたまま待っていた。
松野は「合併は来年4月1日でほぼ決まったよ」と切り出し、新聞の題字は「大都新聞」に統一する、合併比率は大都株1株に対して日亜株5株にすることなど、「美松」での話し合いで決まったことを説明、最後に付け加えた。
「そうそう、両社の編集局長も同席させた。うちは君と北川(常夫・取締役編集局長)君の2人だけがこの極秘情報を知っている。くれぐれも頼むよ」
「それより、合併後の私の仕事、約束守ってね。もともと私の発案でしょ」
「わかっている。心配しないでいいよ。ちゃんと次長、部長と昇格させるから」
交渉は、この寝屋で香也子が「部数トップのままいたければ、合併すればいいのよ」とつぶやいたのがきっかけだった。松野は腕時計を見て、続けた。
「午前6時50分だ。出かけるよ。自由党の石山久雄幹事長の朝食会があるんだ。もう一度戻ってから出社するから、君は『ドント・ディスターブ』の札をかけて出勤してね」
「そうするわ。でも、パパも気を付けて出てね」
「うん。わかった」
松野は寝室を出ると、クローゼットの前で、ネクタイを締め、背広の上着を着て部屋を後にした。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。
※次回は、来週2月9日(土)掲載予定です。
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