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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第15回

大手新聞社長、海外出張中に部下と愛人契約、経費で豪遊も

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「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社社長の松野弥介は、常宿にしている水天宮のホテルのスイートルームで、10年来の愛人である社長室の花井香也子との逢瀬を楽しんでいた。2人の会話はいつしか、2人が不倫を始めるきっかけとなった、10年前のヨーロッパ出張の話になった。この出張は、大都創立130年の記念事業である「大ルーブル展」の調印式に当時社長で現相談役の烏山凱忠が出席するため、当時常務だった松野と、社長室勤務の香也子がそれに同行したものだった。そして烏山は、その主張に愛人の秀香を“同伴”させていたのだったーー。

 大手新聞はどこも、新聞事業の傍らで、美術展やオペラの日本公演などの音楽会の開催を主催する文化事業に力を入れている。新聞本体のブランドイメージを高めるのに役立つうえ、そのチケットが新聞の拡販にも利用できるからだ。

 美術展や音楽会を開催すると、皇室関係の来賓も訪れる。主催新聞社長が美術展なら美術館長とともに来賓を案内し、音楽会なら劇場理事長とともに貴賓席で鑑賞する。スノッブ的な欲望だけでなく、皇室関係者と近づきになるという、野次馬根性も満足させられる。

 部数トップの地位は、その中身に関係なく、国内はもちろん、海外でも通用する。特に、新聞社が行う文化事業ではそのブランドがモノを言う。日本人の間で最も人気のある美術館の1つ、ルーブル美術館を招致するとなればなおさらなのである。

 トップが前社長で相談役の烏山凱忠や松野のように、教養とか文化から最もかけ離れた存在であっても、関係ない。大手新聞にはどこでも文化部というセクションがあり、美術や音楽を専門とする記者がいる。彼らが招致のための下交渉をするからだ。トップの仕事は、招致が決まった時や展覧会開催時の儀式に出席することだけで、スノッブ的な欲望や野次馬根性も満足させられる「おいしい」仕事だった。

 特に、烏山は招致に熱心だった。集客力の大きい美術館やオーケストラ、歌劇場はパリ、ロンドン、ミラノ、ローマといったヨーロッパの主要都市にある。その絵画や公演を日本に持ってくる以上、主催者を代表して契約に調印するため、そのトップが現地を訪れる。

 多少なりとも文化や教養に理解のある者なら、展示予定の絵画を一点一点みたりする。だが、烏山には絵画など「猫に小判」である。儀礼上相手に失礼にならない程度で鑑賞は早々に切り上げ、愛人の秀香と一緒にブランド品の買い漁りに駆けずり回るのが常だった。

 滞在中は連夜、現地の最高級レストランで現地スタッフを含め同行者全員にディナーを振る舞う。もちろん、烏山は秀香同伴だ。そして、ハウスワインがお似合いの連中がほとんどなのに、何のためらいもなく最高級のワインボトルの栓を抜くのだった。

 ブランド品の代金を含め、その費用はすべて大都新聞の経費なので、烏山の懐が痛むようなことはない。しかし、ご相伴に預かる連中の多くは烏山に御馳走になったと錯覚してしまい、恩義に感じる。それが烏山の人心掌握術でもあった。

 「大ルーブル展」が周年記念事業の目玉だったこともあって、烏山の力の入れようは尋常でなかった。調印式にも側近たちを引き連れて、パリに乗り込む勢いだった。当時はまだバブル崩壊の最終局面に勃発した金融危機の収束が見えない状況だった。そんな中、最大手新聞社長が側近を引き連れパリで遊蕩三昧を繰り広げれば、週刊誌ダネになりかねない。烏山の側近中の側近、専務の谷が「金融危機のさなかに大新聞トップが派手に振る舞うのはまずい」と進言、暴走を押し止めた。それが結果として、ライバルの松野と香也子が深い仲になるきっかけをつくったのだ。

●あきれた忠誠心の測り方

 「でも、展覧会自体は大成功だったわね」

 松野が唇から顔を離すと、香也子はソファーに頭を戻し、目を瞑った。

 9年前の「大ルーブル展」は春から秋にかけ東京の国立西洋美術館と京都国立近代美術館で開催された。150万人以上を集客し、大都創立130年の記念事業として成功裏に終わった。