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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第13回

不倫にハマる大手新聞社社長…ホテルのスイートでシャンパン

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不倫にハマる大手新聞社社長…ホテルのスイートでシャンパンの画像1「Thinkstock」より
※前回連載はこちら
『大手新聞社トップ暴露トーク…優秀な記者不要、リークが一番』

【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談を終えた松野は、一足早く店を出て、タクシーで向かった先とはーー。 

 割烹「美松」を出た大都新聞社長の松野弥介は水天宮通りに出ると、タクシーを止めた。

 「銀座の日航ホテル前までやってくれ」

 運転手は黙って車を発車させ、箱崎ジャンクションのところで、右折した。気分が高揚していた松野は高山巌の『心凍らせて』らしき演歌をハミングし始めたが、運転手にはよく聞き取れなかった。そして、小網町の交差点まで走り、信号待ちをしている時だ。

 「運転手さん、ちょっと戻ってくれないか」

 後部座席の松野がハミングをやめ、声をかけた。

 「え、戻るんですか」
 「すまん。忘れ物をしてしまってな。宿泊先のリバーサイドホテルに戻りたいんだ」
 「遠回りになりますけど、いいですね」
 「いいよ。本当に済まんな」

 運転手は茅場町経由でホテルの正面玄関に付け、ドアを開けた。

 「悪かったね。お釣りはいらないから、と取っといてくれ」

 メーターは1070円だった。松野は1000円札を2枚出し、運転席に置いて降りようとした。

 「すぐに銀座に行くなら待ちましょうか」
 「いや、いい。銀座より遠くに行く客が乗るかもしれないじゃないか」

 松野は笑いながら答えた。端から、銀座などに行く気はなかった。それなら、ホテルに歩いて戻ればいいが、そうしないところが用意周到なのである。見送りに出た老女将に、自分がタクシーに乗るところを見せ、残してきた日亜新聞社長の村尾倫郎たちにあらぬ疑いを掛けられないように配慮したのだ。

 松野はアバウトな性格だが、こと女性問題だけは手ぬかりない気配りをする男だった。

 前社長で相談役の烏山凱忠の轍を踏みたくないという気持ちがあったのは間違いない。1度も女性にもてた経験のない烏山は、向島の年増芸者、秀香(ひでか)と愛人関係になると、有頂天になり、周りの目を気にすることもなく、のめり込んだ。その結果、私生活で烏山は妻はもちろん、2人の娘からも総スカンとなった。自宅に帰っても朝食も夕食を用意されていない。バー秀香に立ち寄らない日は、1人でデパートの食堂で夕食を取ることが多かった。

 そんなみじめな老後が脳裏によぎったことは確かだが、それよりもっと大きな理由があった。それは松野が恐妻家だったからだ。松野夫婦には子供がなく、もし不倫がばれでもしたら、即座に離縁状を突きつけられるのが必至だった。だから、松野は妻にはバーやクラブ、つまり水商売の女性との関係は開け広げにし、カモフラージュに余念がなかった。

 そして、これまで、その戦略に綻びが出たことはなく、松野は自信満々だった。

BusinessJournal編集部

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