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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第29回

パワハラ死、社内スキャンダルは脅しでもみ消し!?大手新聞社の巧妙な手口

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「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
--巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談が行われ、終了後、松野と村尾はそれぞれの愛人の元へ帰っていった。そして数日後、4人による第2回目の会談が行われた--。

 大都新聞社長の松野弥介は、熱燗をちびりちびりやりながら、日亜新聞社長の村尾倫郎が部下である小山成雄の不倫騒動について説明するのを聞いていた。しかし、その経緯の説明を終え、村尾がお湯割りに手を運ぶと、急に難しそうな顔つきになった松野がすかさず質問を発した。

 「自殺未遂?」
 「そうです。なかなか小山君が捕まらない彼女は、相当イラついていたんですね。ある大手銀行の駐在員に『小山を連れてきてくれないなら、私、死ぬわ』と電話してきたんです」
 「それはとんだとばっちりだ。びっくりしたろうね」
 「ええ、その駐在員がうちに電話してきたんです。電話に出たのが僕だったんです」
 「それでどうしたんだ?」
 「そりゃ、僕だって慌てましたよ。自分の部下の騒動ですから、多少は知っていました。でも、プライバシーの問題でしょ。支局長も含め、見て見ぬふりをしていたんですけど、自殺するとなると、事は重大です。僕が彼女の宿泊しているホテルに駆けつけました」
 「そりゃ、そうだな」
 「ホテルに駆けつけ、フロントで事情を話し、部屋を開けてもらったんです。部屋に入ると、彼女はベッドに横たわっていました。剃刀で手首を切っていましたが、傷は浅かったんです。すぐに、救急車を呼んで病院に運びましたよ。命に別状はなかったですけどね」
 「ふむ。でも、小山君の今の奥さんは、その補助記者の女性なんだろ?」
 「そうです。子供も3人いるよな。小山君」

 小山は俯いたまま、苦笑いするだけだった。

 「その自殺未遂事件を起こした、姉さん女房の方はどうなったんだい?」
 「その一件で彼女も少し弱気になりましてね。ちょうどその時、ただならぬ事態になっているのを知った小山君の親父が飛んできたんです」
 「親父は何をしたんだ?」
 「小山の実家は大阪の船場の老舗繊維問屋です。次男が小山です。その頃はまだ、実家の羽振りはよかったんでしょうね。親父が彼女と話したんですよ。彼女の両親は早世し、兄弟もなく、小山と結婚した時には天涯孤独でした。親父さんは可哀想だと思ったんでしょうね。一生面倒を見ると約束したらしいんです」
 「そういうことか。それで、円満に離婚、不倫相手と再婚したんだな」
 「ええ、もうしこりはないでしょうね。でも、それと関係あるかどうかは知りませんが、実家の問屋は人手に渡ってしまいましたけどね、そうだよな、小山」
 「もういいじゃないですか、この辺で。あまりいじめないでくださいよ」

 しかめ面の小山が泣きそうな声で哀願した。

 「騒動の代償は大きかったということだな。小山君は親父さんに足を向けて寝られないな。由緒ある老舗問屋を潰したんだからな。よほど次男の君が可愛かったんだろうな」

 松野は少ししんみりした調子になったが、まだ矛を収めなかった。

 「でもな、この事件、知る人ぞ知る、という話だよな。シークレットじゃないぞ」
 「それはそうですけど、日亜社内の現役で知っている人間は少なくなっていますし、もうスキャンダルで表に出ることもないですよ。2つのSと言っていいんじゃないですか」
 「そんな話じゃない。日本の大企業で、小山君のような男を事業の要のポストに就けるところはないよな。安心はできないぜ。20年以上前のスキャンダルでも、その地位によっては蒸し返される恐れはある。我々は、普通の大企業じゃ絶対やらないような人事をやっているわけだからな。前妻の姉さん女房が騒ぐ心配はないのかね。まだ健在なんだろう?」
 「音信不通のようですが、亡くなったという話は聞いていません。そうだよな、小山君」

 当惑気味の小山がしぶしぶ頷くと、村尾が続けた。